人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『姿なきテロリスト』を読む

父親の入院先への行き帰り、せっかくのまとまった時間でもあるので、たまには最近の翻訳小説を、ということで。

『姿なきテロリスト』リチャード・フラナガン/渡辺佐智江訳(白水社)

評論家の山形浩生が好意的に取り上げていたこともあって、読んでみた。
以下は版元である白水社のサイトにある本書のページからの引用。

「9・11」後、恐怖に脅かされた世界を暴く!
 舞台は現代のシドニー。「9・11」後、ロンドン、バリ、マドリードでテロ事件が頻発、このオーストラリアの大都市でもテロ警戒レベルが引き上げられていた。
 ポールダンサー(ストリッパー)の「ドール」は、偶然知り合った中東出身の男と共に防犯カメラに撮られたことがきっかけで、数時間後、未遂の爆弾テロの容疑者として、手配される羽目に陥る。
 警察と諜報機関は執拗な捜査と情報操作を展開し、メディアは周辺情報と憶測まじりの過剰報道で人々を煽る。「姿なきテロリスト」に仕立てられたドールは、やむなく逃走を企てるが……その悪夢のごとき三日間とは?



スリラーもの、になるのだろうけど、描かれるのはまさしく「現代」。
最初、なんだか焦点の定まらないようなストーリー運びに違和感があったものの、後半にいたって、主人公ドールに募っていく恐怖のリアルさと展開の疾走感が鮮烈だ。ドリームワークスで映画化が進行中だというけど、たしかに映像的な展開ではあるかも。

最後に、印象に残る箇所をひとつだけ引用しておく。
ドールが捜査当局から逃げ続ける中で目撃したシーンに関する記述。

 背後では、二人がさらに数分間男を蹴りつづけていた。かつては共同体だった場所で、かつては社会だった国で、だれもが生き抜くはめになったこの十年間に起きたあらゆることが、かつては一人の人間だった糞の詰まった袋のようなこの男のせいだというように。

by t-mkM | 2009-11-20 00:51 | Trackback | Comments(0)


<< みちくさ市、終了! 人生2割がちょうどいい、か? >>