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エンタメ系の賞を二つ受けた『約束の地』

とある記事で、昨年の日本冒険小説協会大賞を受賞した、と書かれていたのを目にしたので、読んでみた。

 『約束の地』樋口明雄(光文社)

2008年の刊行。今年に入ってからは大藪春彦賞も受賞している、二段組み500ページの大作。
以下、アマゾンの説明から一部引用。

農作物を荒らす、人に危害を加える──など、野生動物被害を調査し対応する公的機関「野生鳥獣保全管理センター」。
その八ヶ岳支所に出向した環境省エリート役人、七倉。
自然に満ちあふれ、のどかに見えるこの地で彼を待っていたのは──。

腰掛け人事、と冷ややかに彼を見る部下たち。
猟を法で規制され爆発寸前のハンター。
密猟でもいい。作物を荒らす「害獣」を殺して欲しいと願う農家。
ヒステリックな動物愛護団体。
親の利害関係が生み出す子供のいじめ。
さらに。
ヒトを「エサ」だと認知し、襲い始めた巨大野生動物。
人間の心の闇が生み出した死亡事件。

四面楚歌のこの地に、孤独癖のある娘と二人でやってきた七倉がなすべきこととは?



さすがにエンタメ系の賞を二つ受けるだけあって、どちらかというと地味で重厚なテーマにも関わらず、リーダビリティが高く、多彩な登場人物のそれぞれのキャラも立っていて、物語をしっかりと味わえる。
自然、この本ではとくに野生動物と人間とがいかに共生していけるのかが描かれる。「自然保護はこうあるべき」といった精神論でもなく、かといって農作物を野生動物に食べられるなどの被害を被っている農家=人間の生活を前面に出すのでもなく、もう一段高い次元での共生をどうやって作るのか? そんな問いかけがあちこちにあり、いくつかの謎が仕掛けられた物語を読みながら、読者自身もその問いを考えさせられていく、といった作りになっている。出てくる法律やワイルドライフ・パトロールといった職業は著者の想像らしいけど、そういった「装置」によっても、この本の説得力は増している。

ちょっと主人公が活躍し過ぎで、でき過ぎの感があるけれど、野生動物と相まみえるシーンなど緊迫感のある描写も随所にあって、映画にでもなりそうな気がした。
by t-mkM | 2010-02-04 00:54 | Trackback | Comments(0)


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