日曜日、銀座・ニコンサロンで行われている本橋成一さんの写真展へ足を運んだ。
「屠場<とば>」 6/6 (水) ~6/19 (火) 10:30~18:30(最終日は15:00まで) http://www.nikon-image.com/activity/salon/exhibition/2012/06_ginza.htm#02 同タイトルの写真集の発売にあわせた企画のようで、展示されている写真はすべてモノクロで50点ほど。内容について、上でリンクしたページから一部引用しておく。 大阪・松原の新旧屠場で働く人々を約30年にわたって記録したものである。 人が自らの手で牛を殺す。それは作者が初めて見る光景であった。 屠場で牛と向い合う彼ら作業員の姿には威厳があった。それは、いのちを奪うものとして長い差別の中で彼らを支えてきた職人としての誇りではないか。その誇りを保ち続けてきた源は、日々のいのちとの関わりではないだろうか。 いつから私たちはいのちが見えなくなったのだろうか。 (後略) 牛が屠場に連れられてくるところからはじまり、解体され、各部位になって取り扱われているところ、作業場の全景や後片付けの場面、競りの一幕など、展示用の大判のモノクロ写真が四方の壁にぐるっと掲示され、おおむね作業の順番にならんでいる。以前に内澤さんが書いた『世界屠畜紀行』(角川文庫版)を読んでいたこともあって、それぞれの写真がどういう解体作業なの場面なのか、なんとなく想像することができた。 作業を済ませた器具のならぶショットなど各所で目にとまるものの、やはり解体作業に向かいあう作業員たちの表情をとらえた写真が強い印象をのこす。いまではもっと機械化が進んでいるそうだけど、当時では職人さんによる手作業の工程がまだまだ多かった様子。「屠場で牛と向い合う彼ら作業員の姿には威厳があった」というとおり、写真にうつる彼らのまなざしには見ているこちらも目をひかれる。 展示の冒頭、本橋さんによる短い文章が掲げられている。それによれば戦後すぐのころ、本橋さんの家では自らの食糧用に鶏を飼っており、ときどきその鶏をつぶして食べたそうである。 ふり返ってみると、魚釣りをべつにすれば、自ら食べるために動物を獲ったりつぶしたりという経験はない。これはワタクシに限らず、ごく一般的なヒトの経験だろうと思う。ただ、そういう”経験の無さ”(分からなさ)が広範な人々に共有されていることは、食肉に関わる作業員に対する差別意識を生む土壌になっているのかもしれない。あるいは差別とまではいかなくても、「分からなさ」に長らく向き合ってこなかったとでもいうか。じっさい今回の写真集『屠場<とば>』は、「食肉処理に関わる人々への差別の歴史があるため、同名写真集出版にこぎつけるまでに年月を要した」のだとか。(毎日jp http://mainichi.jp/feature/news/20120614dde018040079000c.html による) またこの写真展では、本橋さんがこれまで出してきた写真集も置かれていた。 どれも興味深い作品なのだけど、なかでも手ごたえを感じたのはデビュー作である『炭鉱(ヤマ)』(1968年)。これまで何度かパラパラと見ていたけど、あらためてこの写真集のページをめくっていて、冒頭が炭鉱事故で亡くなった坑夫たちであることに気づいた。そう、『炭鉱(ヤマ)』という写真集は「死」から始まっているのだ。そんな”発見”から、(牛とヒトという違いはあるけど)死が日常的である場所を収めた今回の写真集『屠場<とば>』とのつながりを思わせた。 デビュー作の『炭鉱(ヤマ)』から40年ちょっと、ようやく出版された写真集『屠場<とば>』を帰りがけに購入しながら、そんなことを感じたのだった。
by t-mkM
| 2012-06-18 00:36
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