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戌井昭人『ひっ』を読む

いつものように、図書館で借りてきた少し前の雑誌から。
今回は文芸誌『新潮』の2012年6月号より、

 『ひっ』戌井昭人(中編小説160枚)

を読んでみた。

この人の小説を読むのはこれが初めて。
ちなみにググってみると、この作品が今度の芥川賞候補作とのことで、そんな記事がわんさかとひっかかる。鉄割アルバトロスケット、という劇団を主宰していて、芥川賞のノミネートはこれで3度目らしい。

「テキトーに生きたい。脳味噌が邪魔だ。半島の先で人生ドン詰まりのおれは深い穴を掘る。」
これは雑誌の目次(文芸誌によくある見開きの、扱いづらいヤツ)にある紹介文。
仕事をやめてぷらぷらしている「おれ」は、母に頼まれ、急死した伯父で根っからの風来坊「ひっさん」の遺品整理に出向き、庭先で穴を掘っている、という始まりからしてそうなのだが、よくもまあテキトーなエピソードを次からつぎとくりだすものだ、と半ばあきれるくらい。なんだけど、なぜか不思議と「その先」が気になってしまい、最後まで読ませてしまう。そんな「脳味噌が邪魔だ」的な感覚がいっそ心地いい、とでもいえるか。

後半、55歳で急死した「ひっさん」が作曲し、大ヒットした「きまぐれ金魚鉢」という、いかにも昭和のムード歌謡といったような歌詞が出てくるのだが、これがヤケに意味深にひびく。

そこはまるで 金魚鉢
こんな小さな 世界でも
大きく見えたの あなたといれば
二人で覗いた ガラス越し
光りが 優しくつつんでくれた
二人で飛び込む 金魚鉢
コロモは はがれて 
水の底で 抱きあった
わたしがあなたで あなたがわたしになっていく
離れられなくなっていた
それでも 終わりはやってくる
わたしも あなたも
ふたたびコロモをまとい
帰らなくては 最後にしなくては
(『新潮』2012年6月号 p183より)

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by t-mkM | 2012-07-12 01:17 | Trackback | Comments(2)
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Commented by ウリ坊 at 2013-09-23 11:37 x
最新作も面白かったです!

新作「すっぽん心中」が出ましたね〜。
芥川賞候補になったこの短篇集は、面白かったです!

birthday-energy.co.jp/
ってサイトは戌井さんの本質にまで踏み込んでましたよ。振り返らず前進を続けてほしいものですね。
Commented by t-mkM at 2013-09-25 18:14
ウリ坊さま、コメントありがとうございました。
コンスタントに新作を発表してますよね、戌井昭人氏。このところ、たびたび芥川賞候補になってますが、受賞もそう遠くないか?
ご紹介いただいた新作も読んでみます。


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