この年末年始、いつものように水族館劇場による別ユニット、さすらい姉妹による寄せ場興行を観に行ってきた。
すでに聞いていたとおり、今回は「谷間の百合」とならび水族館劇場の看板作品でもあるという、”連続射殺魔”・永山則夫をめぐる物語。 さすらい姉妹寄せ場興行2013→2014 やがて何もかもが、分る日がくるだろう。 生きていれば------。 「NORTH Ⅷ 骨の散る海」 http://www.suizokukangekijou.com/sasurai/ 大晦日から5日連続、計5箇所で芝居があったけれど、観に行ったのは大晦日の山谷、元旦の横浜・寿町、そして最終4日の上野公園。 以前のエントリ にも書いたけど、先月たまたま読んだ『永山則夫 封印された鑑定記録』堀川惠子(岩波書店)は、いろんな意味で文字どおりの”衝撃の一冊”であった。 で、今回の寄せ場興行は「「永山則夫」をやる」と聞いていたし、公式サイトにも <あらたに発掘された故・永山則夫さんと精神鑑定医、石川義博さんの対話の彼方に浮かぶ、もうひとつの物語。> とあって、『永山則夫 封印された鑑定記録』についても触れられるようなので、どんな芝居になるのか、いつにも増して気になっていた。 とはいうものの、水族館劇場の”看板作品”だという永山則夫「無知の涙」作品群を、じつはこれまでに観たことがない。水族館劇場を知ってからそれなりの時間が過ぎたとはいえ、いやー劇団の歴史って長いんだなぁと、思わざるを得ない。ただ公式サイトによると、今回のさすらい姉妹の芝居が永山則夫「無知の涙」シリーズの最終章だとあって…。うーん、もうこれっきり演らないのだろうか…。 今回の寄せ場興行、いずこでも水族館ではおなじみの山谷玉三郎さんによる”前座”でスタート。いつになくパリッとした着物に「玉ちゃん!」のかけ声を受けながら、場所ごとで異なる口上を披露しつつ、お客さんまきこんでの河内音頭?の合唱。いやもう、お元気そうでなにより。 そして物語は、1920年代、ロシア極東の町を行く者たちが行き倒れの少女を見つけ、憲兵隊に助けを求めるところから始まる。 この少女が長じて永山則夫の母(千代次さん)となるのだけど、バクチ中毒で家に帰らない夫(つまりは永山則夫の父親)のこと、網走での極貧の生活、母親から捨てられた過去、青森・板柳での窮屈な暮らし、堕胎を余儀なくされ精神を病むセツ姉さん(長女=有栖さん)、岐阜で父親が野垂れ死ぬさま、集団就職での上京、そして絶望の果ての凶行、刑務所内での婚約者との会話シーン…、時間と空間とを頻繁に行き来しつつ、永山則夫をめぐる家族の在りようが浮き彫りになっていく。 寄席で見かける「めくり」で、場面ごとに”いつ・どこの話し”なのかが明示されるけど、それでもまったく予備知識ゼロの人にとっては物語についていくのに苦労しそう。でも、過去に「無知の涙」シリーズを観た人にはそうでもないのかな? 幸い上記の本を読んだので、今回の芝居で個々のシーンが何を描いているのかはすぐに分かった。そういう意味では今回の「骨の散る海」は、『永山則夫 封印された鑑定記録』にかなり影響された芝居なのはたしかだと思う。 その一方で、永山則夫とおぼしきジャズ喫茶のウェイターに本を届ける娘(薫ちゃん)とか、オリジナルで印象的な配役も多く、風兄さん演じる狂言廻しのような厨房担当役?の女には登場のたびに笑わされた。 そして今回は演出が梅山いつきさん。 どことなく、いつもとは微妙に異なる雰囲気があちこちの場面で感じられ、演じている役者さんそれぞれの新しい側面を引き出しているようにも思えた。とくに、上でも触れた薫ちゃんや、永山と獄中結婚することになる相手役の増田さんなど。永山則夫役の左門さんは、ヒゲを落としたせいなのかずいぶん印象が変わっていて、”連続射殺魔”のイメージとも重なるかのようだった。 また正直、最初に山谷で観たときには場面転換の多さなどのせいかけっこう長くて(1時間半以上あったか)、寒空のなかでは演るのも観るのもちょっとシンドイなぁ…、とも思った。けれども、最後の上野公園ではシーンが増えたりしたにも関わらず75分ほどで、タイトですっきりとした芝居へとブラッシュアップされていたなぁ。 そして、母(千代次さん)とセツ姉さん(有栖さん)とのかけあいから、最後の千代次さんによる絞り出すようなモノローグへと至る場面では、ちょっと泣けてきた。 ちなみにラストの場面、いつもの水族館劇場の舞台へと続くかのような含みで終わったように感じられたけど、果たして、これは本公演へとつながっていくのだろうか…。 ともあれ、水族館劇場の皆さん、どうもお疲れさまでした。そして、ありがとうございました。 本公演への展開が楽しみだ。
by t-mkM
| 2014-01-10 01:27
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