『本の雑誌』2014年1月号で、作家の星野博美氏が「昨年読んだベスト3」に挙げていて、タイトルからして面白そうだったので手に取ってみた。
『卍(まんじ)とハーケンクロイツ』中垣顕實(現代書館) 著者はニューヨーク在住の浄土真宗のお坊さん。 日本では卍はお寺を表す記号としてもよく目にするけど、欧米ではナチスを象徴するハーケンクロイツ(いわゆる鉤十字)に似ていることから、反ユダヤと同列に扱われ、忌避されている。 卍は英語では「スワスティカ」と呼ばれる。東洋や仏教圏では二千年以上にわたって幸運・吉祥のシンボルとして親しまれてきた卍=スワスティカ。日本やアジアなど仏教圏はもとより、じつは欧米をふくむ世界中で昔から「卍」は使われていて、本書には各地での写真なども多数載っている。 そんな卍=スワスティカが、ナチスによっていかに歪められたのか。ヒトラーの『我が闘争』をもとにしてその経緯を明らかにしていくプロセスは、なかなかスリリング。 キモだけ書いておくと、ヒトラーは「卍=スワスティカ」本来の意味を知りながらも、ユダヤ人に対するキリスト教徒の聖戦の意味をこめてハーケンクロイツ(鉤十字)としたことだとか。ヒトラーにとってハーケンクロイツはあくまで十字架であり、「卍=スワスティカ」ということではなかった。 しかし戦後、『我が闘争』が翻訳されるさいにハーケンクロイツを「スワスティカ」と翻訳したことから、「卍=スワスティカ=ナチスのシンボル」という認識が広まってしまったらしい。 それで、こうした”誤訳”により、キリスト教(つまりは十字架)によるホロコーストという側面が隠されてしまった。その結果、仏教圏などで長きにわたって幸福のシンボルであった「卍=スワスティカ」は貶められ、キリスト教の十字架が邪悪なシンボルとならずに済んだ、というわけだ。 (正確にはハーケンクロイツは卍とは逆で、さらに45度傾いているけど) 博士論文をもとにしたというだけあって、文献にもとづく実証的な部分が多いけど、読みやすくまとまっている。読み終わると思わず「へぇ」と言ってしまいたくなる、そんな”目ウロコ本”である。
by t-mkM
| 2014-02-21 01:28
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