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モーム『月と六ペンス』を新訳で読む

サマセット・モーム。20世紀前半に活躍した劇作家にしてベストセラー作家。
昔からモームの名前を知ってはいたし、『人間の絆』や『月と六ペンス』などの小説も図書館ではよく見かけてはいた。なんだけど、どうも「過去の人」という感じがあって、あえて手に取ろうという気も起こらなかった。

でもここに来て、光文社が先鞭をつけた”過去の作品を新たに訳して文庫で出す”というブームもあってか、モームの『月と六ペンス』が各社から出てきたこともあり、読んでみる気になったのだった。

『月と六ペンス』W.サマセット・モーム/土屋政雄 訳(光文社古典新訳文庫、2008)


以下は古典新訳文庫のサイトからの紹介文。
http://www.kotensinyaku.jp/books/book57.html

 新進作家の「私」は、知り合いのストリックランド夫人が催した晩餐会で株式仲買人をしている彼女の夫を紹介される。特別な印象のない人物だったが、ある日突然、女とパリへ出奔したという噂を聞く。夫人の依頼により、海を渡って彼を見つけ出しはしたのだが......。

いやー、傑作。モームっていいよなぁ、と痛感させられた。
新訳が出るくらいだし、すでにして有名な小説ではあるけど、どうしていままで読まなかったのかなぁ。

作家である「私」による一人称の小説でありながら、語られるのはストリックランドという、一定の成功と安定を捨て、家族の前からも突如姿をくらまして画家へと転身した男の流転と生涯。
このストリックランド、最初から最後まで、その変人・奇人ぶりには驚かされる。とはいえ、家族の前から失踪するまでは、平凡で芸術にも疎く、面白味のあまりなさそうな人物で描かれたりしている。
”ストーリーテラー”といわれた作家の代表作だけあって、描かれるエピソードはどれも一筋縄ではいかず、入り組んで重層的。人間という存在の複雑さ、男女の関係の不思議、恋愛に対する男と女の違い、などなど、読み始めるそのストーリーの波にひき込まれていく。
また、新訳だからなのかどうかは分からないけど、会話も違和感なく読めて、随所で印象的な文章が目にとまる。

モデルとなったのは画家のゴーギャンだとか。
そしてこの「月と六ペンス」という印象的なタイトル、なんでも「月」が夢や理想を、「六ペンス」が世俗的な生活や現実を指しているらしい。

そういえば、京都には「月と六ペンス」という、そのものずばりの店名のカフェがあって、一度だけ行ったことがある。なんでもない古いマンションの一室を改装した店なんだけど、店名が表すようにとでも言えばいいのか、ソファなんかもないけれど読書する空間にふさわしい、そんな感じ。
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by t-mkM | 2014-12-25 01:02 | Trackback | Comments(0)


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