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梅崎春生の”新刊”

梅崎春生という作家については、数年前、教科書で読んだ短篇『猫の話』に関連して エントリを書いた ことがあった。昭和の作家として、いまでも時おり名前を目にすることはあるものの、上の短篇以外は長篇を含めてまともに読んだことはなかった。
先日、図書館をウロウロしていたら、ふと”梅崎春生”の名前が目に止まり、なんだか新しい本だったので借り出してみた。

『幻燈の街』梅崎春生(木鶏書房、2014)

聞いたことない版元だよなぁ、と思って調べてみると、発行者には梅崎春生についての研究書もあるとか。
この『幻燈の街』、巻末に刊行までの経緯などが詳しく記されている。それによると、『幻燈の街』は1952年に半年にわたって西日本の新聞数紙に連載された新聞小説。梅崎の長篇作品としては4作目、新聞小説としては2作目にあたる。でも、なぜか単行本として刊行されないまま、全集にも未収録だったという。どうして未刊行のままだったのか? という謎については、巻末にある発行者による推理に詳しいのでそちらにゆずるけど、そういう意味では、半世紀以上遅れてきた梅崎春生の”新刊”とも言えるか。

以下、版元のサイトに掲載されている「毎日新聞」の書評(2014年7月13日)から一部を引用。
http://bokkey.jp/gentounomati.html

……
終戦から数年後の東京。南方から復員するも、無為の日々を送る久我丈助は、自称「頼まれ屋」。たまたま知りあった初老の男・西木三十郎からは、家を飛び出 した西木の妻の生活を報告するよう頼まれる。西木の娘、童話を書く男、パチンコ台の女性調律師など、さまざまな男女を見つめ、彼らと触れあうなかで、久我 は徐々に人生の手ごたえらしきものを感じはじめるが、いっこうに自分の道は見えないのだ。
(中略)終始ゆるや かに動く人影は、懐かしさと詩情を呼びおこす。情報の時代「以前」の人間模様を記録した作品としてみると、いっそう感興が深い。

1952年の作品だから、そりゃまあ当然なんだけど、全編にわたって戦争の影が色濃くただよっている。じゃあ暗くて重ーい小説なのかというと、まったくそんなことはなくて、根無し草のようにフラフラと暮らす主人公・久我が遭遇するあれこれは、ドタバタ喜劇のようで可笑しくもある。
やや小さめの文字で2段組。けっこうな分量だけど、新聞連載という形式のためか、テンポ良くストーリーが展開していって、飽きさせない。このところの寝苦しい夜、夜中に目が覚めて読み出したら止まらず、一気に読んでしまった。

それにしても、梅崎春生という作家がこんなユーモアあふれる小説を書いているとは思いもよらなかった。
これを機会に、梅崎のほかの長篇作品も読んでみよう、と思ったしだい。
by t-mkM | 2015-08-05 01:18 | Trackback | Comments(0)


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