ネット配信「hulu」で、久しぶりに小津監督の映画を見た。しかも、はじめて見る作品だった。
『早春』 監督:小津安二郎(松竹、1956年公開) 以下はアマゾンのブルーレイ・DVDのところに載っているレビュー。
あらすじ自体は上のレビューのとおりなんだけど、その評価となると、ワタクシとしてはいささか異なる。 1956年公開なので、舞台は戦争が終わってまだ10年の東京、ということになる。 丸ノ内のオフィス街にはもはや戦争の面影はないものの、夫婦の住むところは隣近所とも私生活が筒抜けのような、ほとんど長屋みたいなところだし、蒲田駅周辺はバラックのような塀?などもあって、まだまだ荒涼としている。 とりわけ印象的だったのは、会社勤めのサラリーマンという在り方(生き方)に対する、懐疑的でシニカル、かつ冷めた視線である。戦後10年というと、復興も軌道に乗ってきて「みんなでがんばっていこう」といった感じなのかと想像していたけど、まったくもって、さにあらず。なんというのか、世間の底に流れている閉塞感といったようなものを強く感じた。 そして、戦争の影というのもまだまだ色濃い。 かつて軍で同じ部隊にいたとおぼしき仲間が集まっての宴席(同期会、というのか)のシーンがあるけど、その宴会の盛り上がりぐあいの、なんともヤケクソなこと。 そして驚いたのが、通勤電車で知り合った仲間たちの間でおこる男女のあれこれに関して、「それじゃ、○○をつるし上げだ」などと言い合い、仲間たちの前で、不倫をしている当の本人(独身)に向かって説教をかますシーン。「みんなで正しい道筋へ導いてやる」とでもいうような、いわゆる”戦後民主主義”のイヤーな側面を思わず見せつけられた感じ。これにはちょっとビックリした。 この映画の8年後、現実には東京オリンピックをやってるわけだけど、少なくともこの映画で描かれる登場人物のだれもが先行きの不安や鬱屈を抱えていて、”元気はつらつ”といった感じとは真逆、という印象である。それにしても、この行き詰まった感はなんなのか。ラストの場面にしても、”人間賛歌”とまで言えるのかどうか。 この映画を見ていると、「東京オリンピック」というのは、この閉塞感を打ち破るためムリヤリに目標として掲げられ、ヤケクソでガムシャラに準備して実現にこぎつけた結果、偶然にも「高度経済成長」にうまく乗っかって繁栄することができた、というのが実際のところなんでは? と、そんなことを見終わって考えた。
by t-mkM
| 2016-03-11 01:13
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