今回はめずらしく、古本ではなく新刊の話。
帯に並んでいる鮮烈な惹句に、思わずひかれたようでもある相方が購入して読んだので、手に取ってみた。 『バラカ』桐野夏生(集英社、2016)
いっしょに帯に並んでいる 「私の「震災履歴」は、この小説と共にありました。」 という作者の言葉も、なかなか強烈な印象を残す。思わず手がのびるのも、まあよく分かる。 アマゾンのレビューを見ると、かなり評価が高い。とはいえ、その一方で「散漫」との指摘もあったりする。 読み始めると、たしかにリーダビリティは高くて、次の展開が気になってページをめくってしまう。 (以下、ネタバレを含んでいます) 日系ブラジル人の夫婦間でのゴタゴタ、あやしげな新興宗教めいた牧師の存在、男はいらないけど子供は欲しい中年キャリア女性、新興国ドバイで営まれる赤ん坊市場、様変わりしたかつての恋人。「どうなるんだ?」と思っているところで大地震が起こり、東日本の太平洋側は津波に襲われ、福島第一原発は4基とも爆発する、…と、この辺りまでが前半。 先が見通せない感はいっぱいで、「どうなるどうなる?」とページをめくらせるけれど、後半に至って視点人物がバラカに移ってくるようになると、なんだかスケールダウンしてしまう。いろいろと出てきた人物たちも、その行動がなんだかちぐはぐで腑に落ちず、とっちらかった印象がぬぐえない感じ。 バラカを執拗に追ってくる勢力とはいったい何なのか、そもそもバラカは何から逃げているのか? 首都圏は放射能で汚染され、首都機能は西へと移り、オリンピックは大阪開催になるとは書かれるものの、物語の全体をとりまく状況は最後まで語られずじまい。またフィクションとはいえ、小学生であるバラカの言葉づかいや、福島原発は「核爆発」したとか、「0.98マイクロシーベルト」(→毎時0.98…、が正しいでしょう)などという記載にも、なんだか興をそがれる。 たしかに、東日本大震災と福島第一原発の事故をめぐっては、この間、現実には政府も市民も右往左往してきたし、いまだにそうだとも言えるのかもしれない。この『バラカ』はいろんな意味で、物語それ自体が、混乱した(している)今回の大震災と原発事故のその後に寄りかかりすぎている気がして、それゆえに中途半端な感じが否めない、そんな印象が残った。
by t-mkM
| 2016-04-13 01:04
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