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早稲田松竹で『岸辺の旅』と『恋人たち』を観る

昨年、話題になり、邦画のランキングでも上位の作品が早稲田松竹でかかっているので、週末、観に行った。

『岸辺の旅』(配給:ショウゲート、128分、2015)

湯本香樹実による同名小説を黒沢清監督が映画化し、第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞。深津絵里と浅野忠信が主役となる夫婦を演じた。3年前に夫の優介が失踪した妻の瑞希は、その喪失感を経て、ようやくピアノを人に教える仕事を再開した。ある日、突然帰ってきた優介は「俺、死んだよ」と瑞希に告げる。「一緒に来ないか、きれいな場所があるんだ」との優介の言葉に瑞希は2人で旅に出る。それは優介が失踪からの3年間にお世話になった人々を訪ねていく旅だった。旅の中でお互いの深い愛を改めて感じていく2人だったが、瑞希が優介に永遠の別れを伝える時は刻一刻と近づいていた。

以上は「映画.com」の解説から http://eiga.com/movie/80556/
昼過ぎに早稲田松竹へ着いて、『岸辺の旅』1回目の上映から観た。
直前になって「整理入場を行います」と言われて1列5人で並んだが、まあそれほど苦も無く座れる程度の混み具合。

ストーリーは上記にある引用のとおりで、付け加えるところはとくにないくらい、過不足なくまとまっている。
夫である優介が世話になっていた新聞配達店の主人役で、小松政夫を久しぶりに見たけど、なかなかいい味を出していた。その一方で、主役である浅野忠信、この人の演技というのが、いまだに上手いのかどうか、じつはよくわからない。深津絵里は、今回の役どころに似つかわしいように感じたけど。

黒沢清監督というと、(それほど知らないものの)ホラーめいた映画を撮る印象が強いのだが、この作品はずいぶんと異なる傾向ではある。でも考えようによっては、妻の視点に立ってみるとずいぶんと残酷な仕打ちのようにも思えるのだが、そういう意味では、ホラーの変種とも言えるのかも。

『恋人たち』(配給:松竹、140分、2015)

「ぐるりのこと。」で数々の映画賞を受賞した橋口亮輔監督が、同作以来7年ぶりに手がけた長編監督作。橋口監督のオリジナル脚本作品で、不器用だがひたむきに日常を生きる人々の姿を、時折笑いを交えながらも繊細に描き出した。通り魔事件で妻を失い、橋梁点検の仕事をしながら裁判のために奔走するアツシ。そりがあわない姑や自分に関心のない夫との平凡な生活の中で、突如現れた男に心揺れ動く主婦・瞳子。親友への想いを胸に秘めた同性愛者で完璧主義のエリート弁護士・四ノ宮。3人はもがき苦しみながらも、人とのつながりを通し、かけがえのないものに気付いていく。主人公となる3人はオーディションで新人を選出し、橋口監督が彼らにあわせてキャラクターをあて書きした。リリー・フランキー、木野花、光石研ら実力派が脇を固める。

これも「映画.com」の解説から http://eiga.com/movie/81579/
正直、『岸辺の旅』はやや長いかなとも感じたんだけど、こちらは終わりにタイトルが画面に流れるまで、画面に引き込まれていた。

「今を生きるすべての人に贈る 絶望と再生の物語」
という惹句がいやでも目を引くんだけど、見終わってみれば、いやもうたしかにその通りだと合点がいく内容で、昨年の邦画でキネ旬1位になったのも十分にうなずける。

とにかく、新人3人の演技が強く印象に残る。とりわけ、通り魔事件で妻を殺されたというアツシ役の篠原篤(役名と同じ、主婦である瞳子も同様)があちこちで見せる演技が、痛いくらいに伝わってくる。
後半に至って、この主役3人が、自らため込んできた鬱屈とした心情を画面に向かって吐露する場面がある。でも、その心情を受け止めてくれる相手はというと、これが3人ともいないのである。そして最後までこの3人が交錯することはほぼ無い。(若干あるけど)そんなところにも、群像劇として現代を感じさせる気がした。

ただ1点だけ、アツシが思わず感情を高ぶらせて声を荒げるシーンで、カメラが急にアツシへズームインする場面がある。これにはちょっと意外な気がして、「へぇ、こんなことするんだ」と、当初は新鮮な感じもしたのだが、よく考えてみるとドキュメンタリーっぽくなってしまい、フィクションとしての興が削がれる気もした。

とはいえ、いろんな意味で、いま観ておくべき一作だと思う。
by t-mkM | 2016-04-21 01:39 | Trackback | Comments(0)


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