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編集者としての矜持

写真集『TOKYO STYLE』が第一の転機だったとふり返っているけど、たしかにあの本、当時のインパクトは大きかったよな、といまでも思う。

『圏外編集者』語り:都築響一(朝日出版社、2015)

以下はアマゾンの内容紹介から。

珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。
ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。 
人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。

多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、
周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。

編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

スタートは『POPEYE』での学生バイトから始まり、『BRUTUS』を経たものの、ずっとフリーで、編集も写真も本作りもだれに教わるでもなく自己流で、それでも世界各地を取材していろんな本を作りつづけていることに、素直に驚かされる。
うまく感想がまとまらないので、とりあえず気になった文章をいくつか書き写しておく。
でも、全てがとても面白く興味深い語りなので、当然ながら本を読むのがいちばんです。

この本に具体的な「編集術」とかを期待されたら、それはハズレである。世の中にはよく「エディター講座」みたいなのがあって、そこでカネを稼いでいるひとや、カネを浪費しているひとがいるけれど、あんなのはぜんぶ無駄だ。編集に「術」なんてない。
(p5)

「編集」は基本的には孤独な作業だ。書籍編集でも雑誌編集でも、まったく同じこと。雑誌だって大きくなるほど多人数で作るだろうけれど、最終的な判断はひとりの編集長が下すはず。だからこそ雑誌の個性が生まれてくる。逆に、そういう「編集長の顔」が見えない雑誌は、おもしろくない。
 だからいま、地方でよく見かけるでしょう、ひらがなタイトルのほっこり雑誌。ああいうのって、がんばっているなとは思うけど、意外におもしろいのが少ない。「昔ながらの町のパン屋さん」とか「アートでエコなカフェ」みたいな記事ばっかりで(笑)。たぶん、みんなで相談しながら作っているからだ、仲良しクラブみたいな感じで。
(p14)

 担当編集者とふたりでどこか知らない街に取材に行って、昼飯時になったとする。そこでいきなり携帯で「食べログ」とかチェックする編集者を、僕はぜったいに信用しない。(中略)
「食べログ」で事前に調べて店を決める人間か、まずは自分で選んで食べてみる人間なのかで、そのひとの仕事は分かれる気がする。なぜなら「食べログ」は、どんな分野にもあるから。
(p23)

けっきょく、編集を学ぶヒントがどこかにあるとしたら、それは好きな本を見つけてじっくり読み込みことしかないと思う。ミュージシャンが好きなミュージシャンをコピーすることから始まるように、画家が尊敬する画家の模写から始めるように、編集者だって好きな本や雑誌と出会って、それを真似して作ってみることから始めたらいい。著者が好きな本でもいいし、編集やデザインや、造本が好きというのだっていい。あとは、1冊でも多く自分で本を作ることのほうが大事だ。
(p33)

 考えてみてほしい。もし、実家の3軒隣に秘宝館があったとする。でもお母さんが「あそこには行っちゃいけません」って20年間言われ続けてきたとしたら、もう見えていない、君の目には。それは存在しないのと同じこと。だから、地元のひとがその地方にいちばん詳しいとはかぎらない。東京はいろんなところの出身者が集まる場所だけれど、そういうひとに聞いてもやっぱりわからない。自分の地元がつまらないと思って、苦労して東京に出てきてるんだから。
(p95)
 最初に三重県の鳥羽の秘宝館に行ったときのことをよく覚えている。場所がわからなくて、駅前の観光案内所で秘宝館ってどこですか?って聞いたら、「さぁ~」とか言って話にならない。おかしいなあと思って歩き出したら、もうすぐそこにあって! 知らんぷりするんだね、自分たちにとって誇れる場所じゃないから。
(p96)

 仕事の量と時間からしたら、原稿料や印税をもらうよりも、だれかが作った本を買って読んでいるほうがずっといい。そういう本がもしあれば。でも、ない。
 だからつくづく思う。僕はいつも部外者だった。インテリアデザインだって、アートだって、音楽だって文学だって。それでも取材ができて、本が作れたというのはどういうことかというと、ようするに「専門家の怠慢」。これに尽きる。専門家が動いてくれたらこっちは読者でいられるのに。彼らが動かないから、こちらが動く。それがなんとか仕事に結びついて、大したカネにはならないけれど、なんとか生きていける。
(p161)

by t-mkM | 2016-04-28 01:20 | Trackback | Comments(0)


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