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最近の福田和也の文章

どなたか作家のツイッターで、"ここ最近の福田和也はすごい"というつぶやきを見かけて「へぇ」と思ったこともあり、最近の作品を読んでみた。

まずは『新潮』2月号に掲載の「絵画と言葉」。

リンク先にもちらっと書いてあるように、自身の長年のファンで病床にあるI氏を見舞いに行った病室にかけられていた松田正平の薔薇の絵からはじまって、長谷川利行の絵のこと、そして自分自身と絵画との関わりや絵に対するスタンス、清水志郎氏の陶芸作品、横尾忠則『言葉を離れる』への驚き、などを語りつつ、I氏が逝くところで終わる。
長年のファンを引き合いに出して、鼻白む感じなのかと思いきや、過去をふり返りながら内省するかのような、ちょっと枯れた感じが独特だ。

それから、『山本周五郎で生きる悦びを知る』福田和也(PHP新書、2016)。

こんな本を書いていたとは知らなかった。
福田和也と山本周五郎って、ちょっと異質な組み合わせという気がするけど、読んでみるとこれがなかなか沁みる。雑誌『Voice』での連載をまとめたもの。以下はアマゾンの内容紹介からの一部。

人間の人間らしさを生涯にわたって探究し続け、自らの生活そのものを小説にささげた周五郎の小説の言葉は、どこかからの借り物ではなく、彼自身が自ら獲得してきた言葉である。彼自身の言葉を用いれば、周五郎は「貧困や病苦や失意や、絶望のなか」の「生きる苦しみや悲しみ」そして「ささやかであるが深いよろこび」を描こうとしたと言えよう。あらゆる文学賞を辞退し、ただひたすら自らが「書かずにいられないもの」を描き続けた作家の真髄を味わう。

山本周五郎にはたくさんの作品があって、今年がちょうど没後50年にあたるようだけど、昔もいまも読まれ続けている。最近になって新潮社から『山本周五郎 長篇小説全集』全26巻が刊行されているけど、この本で取り上げているのは『赤ひげ診療譚』『青べか物語』『さぶ』『季節のない街』『柳橋物語』『樅ノ木は残った』の長篇の6作品。
この中で読んだことのあるのは、『赤ひげ診療譚』『青べか物語』『さぶ』か。まあ、ワタクシは山本周五郎のいい読者ではないので、この3長篇以外には短編集を読んだくらい。

なかでも、さすがに文芸評論家だなと思わせるのは、全集の解説を書いている評者のことばを引きながら、さまざまな本(と作家)と絡めて書いていること。
『赤ひげ診療譚』ではマンの『魔の山』を出し、『青べか物語』には美術評論家の洲之内徹によるエッセイ集が出てきたり、『さぶ』ではイアン・マキューアン『贖罪』が引き合いに出されたりする。

どの長篇の紹介も読ませるけれど、この本を読んでいて、周五郎の小説は繰りかえしの読書に耐えうるんだろうな、とつくづく感じさせられた。未読の長篇はもちろん、あらためてじっくりと周五郎作品に向き合ってみたいと思った。


by t-mkM | 2017-01-27 01:29 | Trackback | Comments(0)


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