『排除型社会』ジョック・ヤング/青木秀男、ほか(洛北出版)
500ページほどあって、辞書のように分厚いです。なので、机以外で読む場合、たとえば寝ながら読むのにはちょっと適しません。 けれど、インパクトのある表紙とともに、内容にも手応えがあります。 主に欧米の社会を分析をもとに、今や社会は、完全雇用による安定と同質にもとづく包摂型社会から、変動と分断による排除型社会へ移行した、と著者は説きます。そして、増加する犯罪を読み解くキーワードとして、「相対的剥奪感」「個人主義の浸透」をあげます。さらに、生活の隅々にまで市場が浸透していくことにより、共同体が崩壊し、「存在論的不安感」が私たちを広く覆っている、とも。 (ただし、日本の場合、この30年くらいの間で犯罪が増加した、とは言えないかと思うので、この本の分析がそのまま当てはまるかどうかは議論の余地ありでしょうが) 最後で、「これからどうすれば、何を考えればいいのか」という点も言及されていますが、そこはいまひとつでしょうか。 原著は1999年の刊行と若干古めですが、日本を含むイマドキの社会を大づかみで理解する上で、有益な一冊ではないかと思います。 もう一冊。 『夢を与える』綿矢りさ(河出書房新社) じつに久しぶりの、長編としての芥川賞受賞第一作。 アマゾンの書評をみても、肯定と否定で二極化しているようですし、屈折した評価をしている書評もあちこちで見かけました。 いまさら内容を書きませんが、ま、そうした評価も分からなくはありません。 描かれる芸能界は想像の範囲を出ないように思いますし、CMタレントが急激にブレイクしつつも自らの過失で没落していく過程もどこかしら既視感を覚えます。 でも、文壇のアイドルとなった著者が、ワイドショーやスポーツ新聞でくり返される芸能人ネタを、あえて小説の形で、しかも文壇の大きな賞を取ったあとにやってみせたところに、なんだか狡猾さとでも言ったものを感じますが、どうでしょう。 それにしても、河出書房新社、発行からたった1週間しか経っていないのに「14刷」というのは、ホントなんでしょうか? それとも、刷数は文字通りの意味ではなくて、たとえば「1刷は数千部単位」ということなのかなぁ。 そういえば以前、藤沢周(だったかな?)が対談で綿矢りさに、「純文学作家としては、もう一生分売っているよな」とかいってたっけ。
by t-mkM
| 2007-06-11 23:54
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