フリオ・リャマサーレスというスペインの作家がいる。
1955年生まれ。 早くから詩人として知られていたそうで、1985年に最初の長編小説である本書『狼たちの月』を発表。つづく2作目の『黄色い雨』は、著者初の邦訳として2005年に出版されていて、翻訳小説としてはそれなりに話題になったようだ。 以前、最初の翻訳である『黄色い雨』を読んで、独特な作風が長く印象にあったので、邦訳第2弾の本書も手に取ってみた。 『黄色い雨』もそうだけど、この表紙カバーは目立たなそうでいて、しかし目にとまる。ジャケ買いした、という日記を見たけど、さもありなん、という気がする。 『狼たちの月』(ヴィレッジブックス) 1937年。スペイン内戦。 反乱軍によって追い詰められた主人公ら4人が、治安部隊のしつような追跡の中で、夜のなかを逃げ続ける日々を描いていく。生まれ育った故郷であり、家族や恋人たちをそばに見ながら、またそうした身内によって助けられながらも、敵の治安部隊から逃げ続けるしかない4人。しかも、逃亡が続く中、ひとり、また一人と仲間を失っていく...。 訳者である木村榮一氏の解説によれば、舞台となっているのはスペイン内戦でもかなり激しい戦闘があった地方で、共和国の政府軍が軍隊の反乱軍による集中的な攻撃で鎮圧されたのだとか。それ以後、1939年に反乱軍が勝利して、フランコ将軍の独裁体制となっていく。 でも、こうしたスペイン内戦の予備知識はほぼ必要ない。(ワタクシもほとんど知らない。でも、あるに超したことはないだろうけど) 文章はテンポよく進み、翻訳も読みやすい。ときおり、過剰に詩的な表現が鼻につくけれど、逃亡の日々の過酷な内容とは対照に、(主人公たちの日常である)夜に輝く月のような静かで透徹した文体が、とりわけ印象的。 また、内戦という、出口が見えにくくやりきれない状況を描いたラストが、暗く重く響く。 なお、蛇足的に付け加えると、訳者の解説は有益ではあるけれど、先に読まない方がいいかな。ストーリーの説明に費やしている部分がわりとあるので、解説を見ずに小説に入っていった方が先入観なく味わえるはず。
by t-mkM
| 2008-02-06 22:36
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