そういえば、前橋へ行く列車の中では、こんな本を読んでいた。
『江分利満氏の優雅な生活』山口瞳(新潮文庫)
最近、文字が大きくなった改版を「ブ」で見つけたので、購入してあったもの。
(アマゾンに画像がないのが残念)
このところブームだと言われている「昭和30年代」の、ちょうど真ん中あたりを時代背景に、当時の中堅サラリーマンを語り手とする「私小説」的な小説。とはいえ、軽妙で洒脱な文章なのでさらっと読める。直木賞受賞作。
オリジナルが1963年に刊行された本作を、いまさらながら初めて読んだけど、軽いタッチで綴られる文章とは裏腹に意外にも印象に残るのは、戦争が落としていった影の大きさとともに、戦時中の抗えない流れに翻弄されて生きるしかなかった庶民の姿、といった部分。戦争をきっかけに成り上がったばっかりに、戦後、落ち目になってもいい暮らしができていたころの性向が抜けないでいる父親に対する江分利氏の複雑な気持ちなんかは、いまだからこそよく分かる気がする。若いときに読んだら、「ふーん」で終わっていたかもしれない。