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シーラッハの『テロ』がはらむもの

ドイツ語圏の作家であるけど、日本でも数年前に短編集『犯罪』が翻訳されてヒットした著者による新作。今回は小説ではなく戯曲。

『テロ』フェルディナント・フォン・シーラッハ/酒寄進一訳(東京創元社、2016)
2013年7月26日、ドイツ上空で旅客機がハイジャックされた。テロリストがサッカースタジアムに旅客機を墜落させ、7万人の観客を殺害しようと目論んだのだ。しかし緊急発進した空軍少佐が独断で旅客機を撃墜する。乗客164人を殺して7万人を救った彼は英雄か?犯罪者か?結論は一般人が審議に参加する参審裁判所に委ねられた。検察官の論告、弁護士の最終弁論ののちに、有罪と無罪、ふたとおりの判決が用意された衝撃の法廷劇。どちらの判決を下すかは、読んだ「あなた」の決断次第。
なんだか、以前にテレビ番組として話題になったサンデル先生の「白熱教室」みたいなテーマだけど、わりと短めの法廷劇で、議論が丁々発止で白熱する、ということはない(そもそも法廷だし)。そのそもが事実関係で争われないので、そうそう揉めないのである。が、しかし…。

じつはこの法廷劇には前提となる事実がある。

アメリカでの9.11テロ後、ドイツでもテロ対策という名目でいろんな法的な対応策が取られ、緊急の場合は国防大臣による武力行使(つまり、状況が逼迫した場合にはハイジャック機の撃墜もやむなし、ということ)を含む航空安全法が制定された。ところが翌年の2006年に、航空安全法の該当条文に対し、連邦憲法裁判所は違憲の判断を下している。
そうした背景があっての法廷劇である。

この戯曲では、法廷で証言に立つ軍の幹部や撃墜された犠牲者の遺族、そして検察官、弁護人、裁判官、いろんな立場から、被告であるコッホ少佐の罪状に対する意見が出される。
それらの、論理の組み立て方というのか、言葉運び、これが読ませるのである。
いかにもドイツらしいという感じではあるけど、法治国家としていかにテロに対峙するのか、という矜持は、検察にも弁護側にも共通しているように感じられる。この辺が、ふり返って我が国とは異なるところか。

この戯曲、結論は有罪、無罪、両方が用意されている。
そして巻末には、テロリストに襲撃されて12人の死者が出た、あの「シャルリー・エブド」誌が賞を授与された際の、著者による記念スピーチが収録されている。これがまた、なかなかで…。

また、この戯曲は実際に舞台として国内でも上演されたようで、上演後、観客に「有罪か無罪か」でアンケートを取ったらしく、国内以外で結果に差が見られたようだ。
実際に舞台でこの上演を見ると、どんな印象を抱くのか、観てみたい。

以下は参考になったブログ記事。






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by t-mkM | 2016-11-28 01:51 | Trackback | Comments(0)

南米発『ドグラマグラ』のようなミステリー

最近の『本の雑誌』の新刊紹介コーナー(数名の書評氏によるページじゃなく、黄色ページのところ)で、たしか「現代の『ドグラマグラ』のような」と評されていたので、「ほう」と思って読んでみた。

『ラスト・ウェイ・アウト』フェデリコ・アシャット/村岡直子[訳]
 (ハヤカワ文庫HM、2016)

以下はアマゾンにある内容紹介。カバー裏の「あらすじ」とも同じ。

テッド・マッケイは自分の頭に向けて拳銃をかまえた。妻と娘が旅行中の今日、とうとう自殺を決行するのだ。引き金に指をかけたそのとき、玄関の扉が激しく叩かれた。リンチと名乗った突然の来訪者は、ある「組織」からテッドへ依頼を伝えに来たと語りはじめる。その内容はあまりにも常軌を逸したものだった…。迷宮のごとき物語の果てには何があるのか。異様なるイメージと予測不能の展開が連続する、南米発の“奇書”

全体は4部から成っている。
1部が終わり、2部に進むとまったく同じ書き出しで始まる。「えっ?!」ってなるけど、だんだん現実なのか妄想なのか分からないエピソードが積み重ねられていく。が、それはまだ序の口。570ページ以上になる本書の大部分は、後半の3、4部から成っているんだけど、その3部に入るところで、3部、4部の登場人物紹介ページが挿入されている。
途中で人部紹介のページが入るミステリなんて、初めて見た。

いやまあ正直に言えば、3部の途中、現実なのか妄想なのか、あまりにも目がくらむかのような展開が続くので、「これはちょっと…」と途中で放り出そうかと思ったくらいなんだが、その辺から4部にかけて、まさしく怒濤の展開となり、あれよという感じで、当初の印象とはまったく違った様相に。

ハッキリ言って、はたしてすべての伏線がきちんと回収されているのか、ワタクシにはよく分からない。
でも、そんな細かいことは置いといていいか、と感じさせるほどに、迷宮のような展開が収束されていくラストには目を見張る。しかも、最後の最後にきて、現実と妄想との境目があいまいになるかのようなエピソードがまたも出てきて…。

あらすじにもあるように、まさしく"奇書"。『ドグラマグラ』が引き合いにだされるのもよく分かる。たしかに似ている。
訳者の解説によると、著者はこれが長篇4作目で、日本初紹介。これだけの小説を書いているのに、専業作家ではなくて、本業は土木技師だとか。いや、驚き。世界は広いですな。



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by t-mkM | 2016-11-22 01:06 | Trackback | Comments(0)

目にとまった記事

ここんところでネットを徘徊して、目にとまった記事をメモしておく。

まずは、よく見るブログのひとつから。
これは、たしかにそうかも、と思えたのでメモ。

もうひとつ。

酢を飲んだら思いのほか仕事がはかどった、というツイートに呼応して、どなたかがリツイートしてリンクされていたブログ記事に飛んでみた。
そこは、「場末P科病院の精神科医のblog」というブログで、今では更新が止まっているらしいが、面白そうな記事がけっこうある。
で、↑にあるブログ記事は以下のエントリ。

以下、エントリの冒頭より。

 大学時代に酒豪のクラスメートがいたが、彼はよく酢を飲んでいた。彼の机には酢の瓶がいつも置いてあり、コップについではガブガブと飲んでいた。彼が言うには、酢がすごくうまいのだという。しかも酢を飲むと集中力が高まり勉強がはかどるのだという(そんなことあるかいな)。

 しかし、この謎が30年以上も経ってようやく解けたのであった。アルコールを飲み続けると、脳の神経細胞はアルコールの代謝産物である酢酸ばかりをエネルギー源として利用するように変化してしまうという論文が出たのである。彼は、ブトウ糖よりも酢酸を好んで消費するようになった脳の命令に従って、昼間から脳のエネルギー源として酢を好んで飲んでいたのだ。今、ようやくクラスメートの謎が解けたのであった。

詳しいことは、このエントリにある論文の説明に譲るけど、へぇ、てな感じ。
脳というのは、もちろん死ぬまで休み無く働いているわけで、常に大量のエネルギーを必要とするのであろう。酒ばっかり飲んでいると、脳は自身のエネルギー欲しさに、そうして飲まれていく酒からもエネルギーを摂取しようするように変化する、と。
でもって、紹介されている論文の結論。

 さらに、論文では、深酒を繰り返すことは、脳が酢酸ばかりを消費するようになるこの適応メカニズムが促進されるから非常に危険であり、深酒はやめねばならないと警告している。これらの現象を防ぐには、酒を飲む時はちゃんと食事も食べてブドウ糖を減少させないようにすることが大切だと著者らは述べている。

 そして、この論文では、最後に、アルコール依存症の解毒時の禁断症状などを緩和するために酢酸を供給することが有益になるだろう。と締めくくられていた。

アル中には酢が有効、か。
このエントリには、興味深い臨床事例も取り上げられているけど、それはぜひリンク先を。
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by t-mkM | 2016-11-18 01:34 | Trackback | Comments(0)

マイルス・デイビスの20CDボックス・セット(輸入盤)を買った

先日、ネットの記事を見ていたら、マイルス・デイビスがコロンビア以降に出したアルバムが20セット入ったCDボックス(輸入盤)が、格安で出ているのを知った。
さっそくアマゾンを見に行くと、たしかにあった。
セット内容を見ると、すでに持っているCDがあるものの、ダブるのは数枚くらい。
輸入盤というのがちょっと不安ではあったものの、カスタマー・レビューを読むとかなり好意的なレビューが並んでいることもあって、思い切ってポチった。
とはいえ、肝心のお値段は、送料ふくめて6000円でおつりが来るくらい。2枚組も含まれているので、CD1枚当たり300円にも届かない。

いやー、中古レコード屋にたびたび足を運んでCDを買っていた日々は、いったい何だったのか! 昔をふり返ると、いささか複雑な思いが無くはないけど、それでもまあ、この値段でマイルスのCD20タイトルが手に入るのだから、いい時代になったものである。

で、待つことほぼ1ヶ月くらい。
途中、アマゾンから「いついつまでに出品者から連絡が来ないと、注文は自動的にキャンセルになる」みたいなメールが来ていて、やはり輸入モノというのは難しいのかなぁ…、なんて思い始めていたところ、ようやく業者より、「発送したよ」というメールが届いた。

今回、注文したところはMEGALOSという業者。
発送元の住所は奈良になっていて、ゆうメールで届いた。さっそく開けてみると、ご丁寧な挨拶状が入っているなど、きちんとした業者だという印象を受けた。

カスタマー・レビューでもあったけど、紙ジャケットとはいえ、国内盤のようなしっかりしたものではなく、どうしてもペラペラ感は否めない。中のポリ袋も無く、紙ジャケにCDが直接入っている。でも、ジャケットの背にはちゃんとアルバムタイトルが書かれ、紙ジャケもそこそこキチンと作られているし、解説書も(英語とフランス語だけだが)ちゃんとしている。肝心の音も、リマスターしているようだし、オリジナルの曲順にボーナストラックも付いているバージョンである。それと、国内盤なら日本語のライナーノートが当然付くわけだけど、いまどきマイルスの解説書なんてあまた出てるし、いまさらライナーを有り難がることもないだろう。
そんなふうに割り切れば、お買い得のボックスセットだ。

これでしばらくは楽しめそう。


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by t-mkM | 2016-11-17 01:12 | Trackback | Comments(0)

『ガンルージュ』の主人公って…

『機龍警察』シリーズにハマッて以来、新作が楽しみにしている月村了衛なんだけど、図書館をウロウロしていて、その新刊があったので手に取った。

『ガンルージュ』月村了衛(文藝春秋、2016)
韓国の大物工作員キル・ホグン率いる最精鋭特殊部隊が日本で韓国要人の拉致作戦を実行した。事件に巻き込まれ、人質となってしまった中学1年生の祐太朗。日本政府と警察は事件の隠蔽を決定した。祐太朗の母親で、かつて最愛の夫をキルに殺された元公安の秋来律子は、ワケあり担任教師の渋矢美晴とバディを組み、息子の救出に挑む。
因縁の関係にある律子とキルの死闘の行方は。そして絶体絶命の母子の運命は――。
なんだか説明しすぎのようにも思うけど、以上はアマゾンの内容紹介から。
これだけ読むと、冒険アクションもののように想像される。まあ、女性ふたりの主人公による冒険アクション、というのはそのとおりなのだが、ちょっとした趣向というか、国産ミステリを読んでいる方なら誰でも知っているであろう有名シリーズの登場人物を彷彿される人物が、主人公の片方だというのが、本書の大きな特徴。

<以下、ネタバレを含むので、未読の方はご注意を>



…というか、もう冒頭から笑える。
「ワケあり担任教師の渋矢美晴」というのは、その人物描写からどうしたって『新宿鮫』で鮫島の恋人である晶をイメージするし、その美晴の、「公安から目をつけられている新宿署の警部」という元恋人は、鮫島を思い浮かべざるを得ない。
とはいえ、もちろん『新宿鮫』とはまったく別の設定。晶よりもヤンキー風味の増している美晴が笑えるパートだとすると、もう一方の主人公である律子は、シリアスなパートと言えるか。この両者が、祐太朗の拉致という事態から急遽、成り行き的にバディを組み、救出に向かう。

対峙するのは、韓国の最精鋭の特殊工作部隊。
いま、韓国大統領の疑惑がニュースで話題だけど、韓国の財閥との絡みなど、偶然とはいえ、この著者が小説に絡めてくる現実の国際情勢とのリンクぐあいには、(じつはそう関係ないのかもしれないけど)ちょっと驚く。

またその救出劇には、「そんなのあり得ないだろ」的な場面もあるものの、それらも強引に(とりあえず)納得させながら突き進むところが、この著者らしいと言えば言える。

とことんエンタメとして楽しむ読書向き、です。


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by t-mkM | 2016-11-09 01:30 | Trackback | Comments(0)