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辻原『闇の奥』を読んで、『地獄の黙示録』が頭をよぎる

昨年末の全国紙(読売だったかな)に載っていた「今年の収穫」みたいな記事で、複数の文芸評論家の方がとりあげていたので手にとってみた。

 『闇の奥』辻原登(文藝春秋)

2005年から09年(長い!)にかけて、『文学界』で散発的に掲載されたものをまとめた、なんともいえない雰囲気をまとった長編小説。奇譚といっていいか。


『闇の奥』といえば、まずはジョセフ・コンラッドの小説が思い浮かぶ。
この小説も、第2次大戦末期にボルネオ島で消息を絶った三上という民族学者の姿を追うべく、三上の息子をはじめ数名の調査隊によるジャングル奥地への冒険譚として描かれていく。まさに『闇の奥』を思わせる展開。
そして『闇の奥』といえばもうひとつ、フランシス・F・コッポラ監督の映画『地獄の黙示録』だ。読んでいて、『地獄の黙示録』でウィラード大意がベトナムの川を軍の哨戒艇で遡行していくシーンが何度も頭をよぎった。小人族(矮人族、ネグリト)の住む地へたどり着く場面なんて、白塗りの原住民たちがウィラード大尉たちを待ち受ける映像がダブって見えたっけ。
でもこのあたりから、小説は思わぬ展開に。

『地獄の黙示録』を思い起こさせるものの、映画のような陰鬱とした雰囲気とはまったく異なり、どこか飄々として物語が進んでいく。
そう長い作品ではないけど、作家の想像力というものにあらためて驚かされた気がする。


 神保町・AMULETの1階にブックカフェがオープン。
 プロ・アマ含め10数店舗から出品された古本が販売中。
 <古本T>も100冊超を出品しています。
 神保町にお越しの際は、ぜひお立ち寄り下さい。
  AMULET http://amulet.ocnk.net/
  東京都千代田区神田神保町1-18-10 三光ビル
  Tel & Fax : 03-5283-7047
  Open : 12時~20時  休日 : 年末年始

# by t-mkM | 2011-01-28 00:54 | Trackback | Comments(0)

『展望』という雑誌

先日行った南部古書会館の五反田遊古会では、1階に新旧さまざまな雑誌のバックナンバーがあったと書いたけど、かつて筑摩書房から出ていた『展望』という雑誌もまとまって出されていた。
この『展望』に関しては、最近こんな本が刊行されている。

『1970年転換期における『展望』を読む』
大澤 真幸, 斎藤 美奈子, 原 武史, 橋本 努 編集(筑摩書房)

筑摩書房のサイトに詳しい紹介がある。
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480842947/



『展望』は、戦後直後に数年間出版されたものの中断し、第2期として1964年から1978年まで刊行された。上で紹介した本は、この第2期で掲載された論文などの中から、4人の編者らが各自テーマを設定して選んだ論文を収録したもの。

この本には「思想が現実だった頃」という副題がついているように、大澤真幸 や橋本努 といった研究者が選んだ思想的、社会学的な論文が問題意識の中心のようではある。
でもパラパラと読んでいて面白いなと感じたのは、原武史が書いていた「中央線・新宿・新左翼(含む全共闘)・個人」 対 「西武池袋線・郊外の団地・共産党・集団(=みんな)」といったような対比の構図。それから斎藤美奈子の言及していた、「当時、住民運動は約一万件。都道府県で割れば一県あたり200件以上の運動があった」という指摘や、関連して収録されている筑豊・三里塚・水俣といった地域の運動に関わる記事など。

…なーんて書いているけど、五反田遊古会では結局、『展望』は買わずじまい。
できれば、開架になって所蔵されている図書館でバックナンバーを見てみたいと思う。


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# by t-mkM | 2011-01-26 00:55 | Trackback | Comments(0)

五反田へ

先週、四谷書房さんによる<東京古本市予定表> http://tbfs.ninja-web.net/を眺めていて、週末に南部古書会館で「五反田遊古会」が開かれることを知り、ひさしぶりに行ってみた。

前に来たのはいつだったか?と思ったら、じつに3年前近くになる。そんなになるか…。

長期間のブランクがあったものの、前にも書いた↑ように、五反田遊古会ってやっぱり見ていて面白いし、個人的にストライク・ゾーンの本があちこちにある。とくに1階のオープンスペース。古ーい雑誌や昔の写真、さらには最近の文庫・新書から文芸誌まで、さまざまに並べられていて興味がつきない。
行ったのは土曜日で最終日。3時過ぎに会場につき、この1階で時間を費やしてしまったので、2階のほうをじっくり見る時間がなかったのが惜しまれるなぁ。
この日はしめて10冊ほど購入。

ただ五反田遊古会の1階、面白いのだけど、いかんせんオープンなので寒いこと寒いこと。冬の古書市は着込んでこないといかんな、と実感。


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# by t-mkM | 2011-01-24 23:28 | Trackback | Comments(0)

大東京ビンボー生活マニュアル !

久しぶりにNEGIさんのブログ(http://d.hatena.ne.jp/foxsya/)を見ると、先週末に<アンチヘブリンガン>で行われたナンダロウさんとのトーク・イベントのことが書かれていた。

そのトークのためにNEGIさんが持ってきた中で、
 前川つかさ『大東京ビンボー生活マニュアル1〜5』(講談社モーニングコミックス)
が目に止まる。


ワタクシも、この漫画で阿部昭などの作家を知った。NEGIさんいわく、「自分の世代の文科系にはよく知られていた漫画」らしい。でも地方で理系だったせいか、学生の時にはこの漫画のことを知らず、就職後に講談社漫画文庫ではじめて見て、購入したのだった。
以後、何回読み返したことか。
下宿のおばさんとコースケとのやりとりなど、自分の学生のころとダブる部分もあったりして、読み返し始めると、ついつい読みふけってしまうのだった。たしかにコースケの彼女はすばらしい人なのだが、コースケに彼女がいるという設定自体に驚かされたな。

「ビンボー」という関連でいえば、このほかでよく読んだ漫画は
 『男おいどん』松本零士。
これも年代が違うけど、「東京もの」といえるか。


これを読んだのは中学一年生のとき。
詳細は省くけど、当時入院していて、同室だった(たしか一学年下、ということは小学生だったのか)ヤツから借りて読んだ。<サルマタケ>の印象も強かったけれど、この『男おいどん』を入院中のベッドで読んでいると、なんだか勇気づけられたことをいまでも覚えている。
もちろん、講談社漫画文庫でのシリーズを買ったのは言うまでもない。

ヤツはいまごろ、どうしているだろうか。


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# by t-mkM | 2011-01-21 01:46 | Trackback | Comments(0)

小説と体験記からいまを読む?

まずは、『無理』奥田英朗(文藝春秋)。

2009年に出た本。
フツーの市民がふとしたきっかけでドツボ・スパイラルにはまっていく様を、複数の登場人物の視点から描く群像劇。


合併によってできた「ゆめの」という市に暮らす男女5人が主人公。おそらく北陸や東北あたりが舞台かと思われるが、読んでいて"地方のいま"のありようがえらくリアルにせまってくる。
この本は同じ著者による『最悪』『邪魔』といった小説に連なるものだろう。ただ、『最悪』などでは人物に焦点をあてて描かれていたように記憶するのだが、この『無理』ではキャラは立っているものの、人物造形はどこか類型的。むしろ登場人物を通して描かれていく、「ゆめの」という(架空の地域に代表されるような)地方における、行き詰まり感といか、寂れた・ただれた様子が強烈に印象に残る。

それじゃ都会はどうか。
ということでもう一冊。

『高砂コンビニ奮闘記』森雅裕(成甲書房)。

こちらはフィクションではなくコンビニでのバイト体験をふりかえり、まとめたもの。乱歩賞作家にも関わらず出版界から干されてしまった著者による10年ぶりの商業出版だとか。


著者が勤務したのは葛飾区高砂の、とあるコンビニ・チェーン店。東京都市部といっても地域によってさまざまでカラーも異なるだろうけど、座り込んで雑誌を読むとか、客の理不尽なクレーマーぶりにも驚かされる。そういった理不尽な客にもキレずに対応(対抗?)し、常に入れ替わる同僚バイトともそれなりにうまくやりながら、頻繁に変わる商品やサービスも覚えないとならない。コンビニのバイト(この本で書かれているのはおもに夜勤)、かなり大変そうである。
いまやコンビニは全国に数万店とあり、バイトなどで関わった人は百万の単位になるだろう。でも、コンビニのバイト店員側から、これほど詳しく内情を書いた本は初めてではないか。身近なコンビニの日常を知るうえで、得難い一冊。


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# by t-mkM | 2011-01-19 00:24 | Trackback | Comments(0)