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『富士さんとわたし』を読む

坪内祐三氏が『本の雑誌』や『en-Taxi』で絶賛しているのを読んで、手に取った。

『富士さんとわたし 手紙を読む』山田稔(編集工房ノア)

全527ページでちょっと大きめの単行本(A5版というのかな)サイズ、本体3500円のどっしりとした存在感のある本。
<はじめに>で著者の山田氏はこう書いている。

...山田からの百九十四通、それへの返信として富士からの百六十九通、合わせて三百六十三通、期間でいえば一九五四年四月から一九八七年二月までの約三十三年間にわたるこれらの手紙は、いわゆる文学的往復書簡というほどの大層なものではない。そのほとんどすべてがおしゃべり電話代りの、雑談的な言葉のやりとりにすぎない。だがそのあいまに、どの作品集にも収録されていず、また今後も収録されることはないであろう富士正晴の興味ぶかい短文や談話を紹介し、また気ままに脇道へ逸れつつ思い出すことのあれこれを、いわば私的注釈として手紙と手紙のすきまに詰めていく、そのようにすれば富士正晴への関心、理解あるいは親近の情をいささかなりともひろげ、深めるのに資するのではないか。

じつは、富士正晴という作家についてはほとんど知らないし、本書の手紙のやりとりで主な題材ともなっている同人誌『VIKING』も、この本で知ったくらいだ。また山田稔もエッセイなどは2,3読んだものの、小説についてはこれまで読んだことがない。

そういうワタクシのような、文学の"どシロート"であっても、十分たのしめて、読みごたえのある本だった。
60年安保のころの慌ただしい感じ、70年前後の大学紛争の影、高橋和巳のこと、同人誌をめぐるあれやこれや......。著者がいうように、手紙といってもホントに「おしゃべり電話代り」なのだけど、そこに挟まれる私的注釈がとても滋味あふれていて、一気に読むのがもったいない気がしてくる、そんな感じ。

それから、富士、山田はもちろん、交流のある人々みんながよく酒を飲んでいるのが印象的だった。

これを機会に、富士正晴と山田稔の小説にも手を伸ばそうと思う。

また、毎日新聞に掲載された書評があったので、メモしておく。
by t-mkM | 2009-03-13 00:48 | Trackback | Comments(0)


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