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新潮新人賞の受賞作『工場』を読む

いつものようにちょっと前の雑誌から。
今回は『新潮』11月号。
新潮新人賞の受賞作が2作掲載されていおり、そのうちの『工場』小山田浩子を読んだ。

例によって、「文学は面白いのか(仮題)」さんが絶賛していたこともあって手にとったのだが、読み始めると引き込まれて、一気に読んだ。
インタビューによれば著者は26歳主婦。長編小説を完成させたのはこの作品がはじめてだとか。
http://www.shinchosha.co.jp/shincho/tachiyomi/20101007_1.html


主要な登場人物3人の視点が入れ替わりながら場面が進んでいく構成や、しだいに時間が前後する記述が増えて現実感覚がぼやけたりするところはなかなか。また、3人それぞれの職場を描きながら巨大な"工場"の得体の知れない雰囲気がうまく醸し出されていたり、職場の同僚と交わされる会話のリアルさなど、およそ初めて長篇をまとめたとは思えない。滑稽でありながらもどこか人物描写に毒気があったり、リアルな会話が交わされつつもシュールな場面がいきなり現れたりするところも凝っているし。

なお選評で、福田和也が「候補作の中で、社会があり、他者が存在しているのは、この『工場』だけだった」というようなことを書いており、町田康の選評でもそんなような文章があった。そういえば『文学界』11月号では、新人賞の下読み委員の覆面座談会が掲載されていたけど、
http://www.bunshun.co.jp/mag/bungakukai/bungakukai1011.htm
最近の文学新人賞への応募作って、そんなにも自分語りばっかりなんだろうか。
by t-mkM | 2010-12-15 01:33 | Trackback | Comments(0)


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