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現状に抗していくためのサッカー

よく立ち寄る近所の図書館へ行って新着コーナーをつらつらながめていると、なにやらヘンテコリンで面白そうな本が目についたので、借りてみた。

 『アナキストサッカーマニュアル:スタジアムに歓声を、革命にサッカーを』
  ガブリエル・クーン 著/甘糟智子 訳(現代企画室)

タイトルだけからすると「なんじゃらほい?」という感じではある。が、ビジュアルは最小限、360ページ余りにわたって比較的小さな活字で「これでもか」と詰め込まれた情報量たるや、いやもうハンパではない。以下、アマゾンの内容紹介より。



サッカーは「大衆のためのアヘン」なのか? 偏狭なナショナリズムを超え出て、サッカーは新たな連帯の地平を切り拓くのか? ヨーロッパ、南米、アフリカ…、世界各地からひろい集められた無数の声が、この魅力あふれるスポーツの歴史と華やかなサッカービジネスの裏側、フットボールを心から愛する人たちの多様な実践を描き出す。ラジカル・フットボーリズム入門、決定版。

ところで、サッカーにはあんまり、というかほとんど興味がない。子どもの頃はさておき、いまとなってはプロスポーツ全般に関心が薄くなった。
しかし、1972年オーストリア生まれで著述家、セミプロリーグの元サッカー選手にして様々な社会的プロジェクトを手がけるというこの著者が、古今東西、有名無名の人々、さまざまな階層から集めてきたサッカーに関する言説・記事・エッセイのコラージュは、そんなワタクシが拾い読みしているだけでも十分に楽しめる。
普段はあまり見ることもない単語があちこちに出てくるので、ちょっととっつきにくいかもしれないけど、翻訳はこなれていて読みやすい。

2010年の時点でFIFAの加盟国は208ヶ国、国連に加盟している192ヶ国より多い。サッカーが世界で最も人気のあるスポーツであることは間違いない、という所以である。
そんなにもポピュラーであるがゆえに、「権力を持つ者たちによるサッカーの搾取」「サッカーは民族主義的、国家主義的な意識や派閥心を焚き付け、結集させ、増幅するものだ」といった批判、商業化への偏向などが昔から指摘されてきた。本書の前半では、これらの批判が歴史的に跡づけされたりするのだが、タイトルも示すように、この本のキモは後半。「第3章 プロサッカーへのラジカルな介入」「第4章 オルタナティブサッカーの文化」でくり広げられる、世界各地で(たぶんいまも)行われている、サッカーをとりまく現状に対する批判的、対抗的な実践の数々の紹介だろう。
(ちなみに本書の原題は『Soccer vs. the State: Tackling Football and Radical Politics』となっている)

これを読んでいると、(欧州が多く取りあげられているとはいえ)世界はまだまだ広くて、さまざまな場所(場面)で”取って替わり得る可能性(オルタナティブ)”を模索しながら、いろんなことをやったり主張している人々があちこちにいるんだなぁ、とつくづく思う。まあ、あたりまえではあるけど。
サッカーに興味があっても無くても、ものは試しでまずは拾い読みでも。世界の見方が広がる、かも。
by t-mkM | 2013-05-22 01:31 | Trackback | Comments(0)


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