いやー、面白かった。
たっぷりと小説世界に浸りきり、堪能したなぁ、という感じ。 それにしても、いつ以来だろう? 著者の小説を読むのはじつに久しぶりである。 『東京自叙伝』奥泉光(集英社) 刊行されたころ、けっこう話題になっていたこともあって、近所の図書館に予約しておいたら(ようやく)順番が回ってきたので、さっそく借りて読んでみたら…、!!というワケ。 なんでも、今年の谷崎潤一郎賞を受賞したんだとか。 以下、アマゾンの内容紹介から。
これ、版元のサイトにも載っている紹介文だけど、読み終わった身としては「ちょっとどうなの?」的な紹介だなぁ。ミステリではないけれど、ややネタバレだし。もう少しなんとかならなかったのかね。 ちなみにアマゾンを見ると、おおむね好評のようだけど、とはいっても平均で評価3.5。 たぶん、じつに軽薄で悪趣味とすら言えそうなノリの語り口に違和感を覚える向きがあるのでは? と邪推するけど、どうなんだろう。 でも読み始めの、ちょっと取っつきにくい部分を過ぎてこの語り口に慣れてしまえば、もうあとは大丈夫。近現代の知識が少しでもあれば(つまり中高年の方ならそれなりに)楽しめること請け合い、かと思う。 そういった意味では、著者が芥川賞の選考委員をしているとはいえ、純文学ではなくて、いわばエンタメの王道を行く小説、とも言えようか。 本書の主人公=語り手は「東京の地霊」。 全体が六章で構成され、幕末~明治維新、第二次大戦、戦後の混乱時期、高度成長期、バブル経済のころ、2000年代以降と、決して時代の表舞台には出てこない(でもそれなりに影響力のあった?)一個人に憑依した「東京の地霊」による物語。とりわけ読み応えがあったのは、戦後の混乱期に暗躍するやくざによる第三章、高度成長の裏で飛び回っていた黒幕的人物が語り手となる第四章あたりかな。 バブル経済に入ってからこっち、とくに2000年代以降を描く第六章になると、やや書き急ぎすぎた感があって、これまでの各章で書かれたようには展開してくれていないのがちょっと残念。まあでも、現代ともなってくると記憶が生々しすぎる(個々人での評価がバラバラな)こともあって、小説家としては描きにくいのかも。 それでも、とくに最後へと至るところでの著者のシニカルで突き放したような視点には、いまを東京で生活している者として、いやでも思うところがあるし、いろいろ考えさせられる。 とにかく、今年に出た本では収穫の一冊!です。
by t-mkM
| 2014-12-10 00:52
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