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『土漠の花』のリアル感

以前のエントリでも取り上げたように、『機龍警察』シリーズにはうならされているのだが、その著者によるSFじゃない作品も、これまた読み応えがあった。

『土漠の花』月村了衛(幻冬舎、2014)

ソマリアの国境付近で、墜落ヘリの捜索救助にあたっていた陸上自衛隊第一空挺団の精鋭たち。その野営地に、氏族間抗争で命を狙われている女性が駆け込んだとき、壮絶な撤退戦の幕があがった。圧倒的な数的不利。武器も、土地鑑もない。通信手段も皆無。自然の猛威も牙を剥く。最悪の状況のなか、仲間内での疑心暗鬼まで湧き起こる。なぜここまで激しく攻撃されるのか?なぜ救援が来ないのか?自衛官は人を殺せるのか?最注目の作家が、日本の眼前に迫りくる危機を活写しつつ謳いあげる壮大な人間讃歌。男たちの絆と献身を描く超弩級エンターテインメント!

以上はアマゾンの内容紹介から。
まあ、ちょっと煽りすぎかとも思うし、カバー折り返しにある有名人の絶賛コメントにもやや白ける。(たぶん『機龍警察』読んでなかったら、あの絶賛コメントで読む気が萎えたかも)

が、しかし。

安保法案をめぐって国会内外で「集団的自衛権」が大きな争点となり、議論を呼んだ今年の状況を踏まえると、「何年か後に、この小説に書かれたことが現実になってしまうかも?」と思わされてしまう。それほどにリアル感がある、ということなんだけど。

冒頭の10ページほど、やや取っつきにくい感じがあるものの、そこを過ぎればあとは一気呵成。これでもか、というくらい怒濤のごとくストーリーが展開していく。
偶然にしてはちょっと出来すぎなんじゃないの? というシーンも(多々)あるものの、舞台設定と状況描写はあくまでも細部に至るまでリアル。とりわけラストの場面では、さまざまな疑問の背景が明らかとなり、それらを受けて自衛隊幹部の取った対応など、「いやぁ、さもありなん」とつくづく感じ入った。
それにしても、このリアル感、日本人としては複雑ではある。
by t-mkM | 2015-12-24 00:55 | Trackback | Comments(0)


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