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音楽を小説にすると

図書館に予約した本の順番がようやく回ってきて、こんな本を読んだ。

『オルフェオ』リチャード・パワーズ/木原善彦(新潮社、2015)


以下はカバー折り返しに書いてあり、アマゾンにも載ってるあらすじ。

微生物の遺伝子に音楽を組み込もうと試みる現代芸術家のもとに、捜査官がやってくる。容疑はバイオテロ?逃避行の途上、かつての家族や盟友と再会した彼の中に、今こそ発表すべき新しい作品の形が見えてくる―。一人の音楽家の半生の物語は、マーラーからメシアンを経てケージ、ライヒに至る音楽の歩みと重なり合いながら、テロに翻弄される現代社会の姿をも浮き彫りにしていく。危険で美しい音楽小説。

原書は2014年の刊行。
訳者あとがきの最後で、木原氏はこんなふうに書いている。

 つまり、本書(音楽を分子生物学に持ち込もうとする作品)の翻訳は、日本語をパワーズに持ち込むことであり、日本語を二十世紀音楽に持ち込むことだった。

これがきわめて困難であったと書いているのだけど、こんな壮大で野心的な小説が、翌年には早々に翻訳・刊行され、しかもとても読みやすいのだから、いろいろあっても今の出版環境というのはたいしたもんである。ただのフツーの一読者としては、関係方面に感謝するのみ。

久しぶりにパワーズの小説を読んだけど、二十世紀のエポックとなった事件やら音楽に関連する固有名詞の連発は言うに及ばず、それらをちりばめながら、音楽(学も)の発展の歩みや音楽そのものの持つ深淵なる部分を独特の語りで表現しつつ、スリリングな小説にしてしまう。つくづく、世界は広いよなぁ、と思わざるを得ない。

この小説のおもしろさを語りきれないけど、作中に出てくるエピソードのなかで、印象に残ったものが二つある。
ひとつが、オリヴィエ・メシアンの『時の終わりのための四重奏曲』が、ドイツのユダヤ人捕虜収容所で作曲され、収容所の捕虜やドイツ軍将校たちの前で初演されるシーン。もうひとつが、スターリンによる突然の批判を受けたショスタコーヴィチが、葛藤と苦悩のすえに音楽的な反撃として書いた『交響曲第5番』のくだり。

これを読んだ後で、上の2曲がどんなふうに耳に響いてくるのか? ちょっと楽しみでもある。
by t-mkM | 2016-02-23 01:22 | Trackback | Comments(0)


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