しばらく前に新聞の新刊広告でこの文庫版が出るというのを目にして、「おっ」と思っていたところ、たまたま行った図書館でハードカバー版を見かけたので、さっそく借りて読んでみた。
『コルトM1851残月』月村了衛(講談社、2013)
以上はアマゾンのハードカバー版にある内容紹介から。 文庫版の帯を見ると、「大藪春彦賞を受賞!」とあり、2015年度の受賞作だ。 タイトルの「残月」とは、主人公である郎次の別名。「コルト」とは、もちろん拳銃を作っている会社のことで、「コルトM1851」は拳銃の型式。 上にも書かれているとおり、プロローグから郎次による拳銃での立ち回りが、硝煙が立ちこめるかのごとくに描かれていて、のっけからノワール全開で進んでいく。舞台は江戸時代ではあるものの、言ってみれば西部劇を日本の時代小説に持ってきたアクション・アウトローもの、といった感じか。 文庫版の解説を馳星周が書いていて、大藪春彦賞の選考会で彼が本書をつよく推して受賞に至ったのだとか。解説で馳星周も触れているけど、主人公・郎次のキャラ造形が2重、3重に凝っており、アウトローから這い上がれずにそのまま突き進むしか道が残されていない! という焦燥感がとてもリアルだ。そこらへんが新鮮だし、受賞の理由でもあるんだろう。それから、郎次と対立することになる側が「新たな商売」として目をつけたこと、これは現在の国際社会が抱える問題にも通じていて、その点でも『機龍警察』の著者ならでは、という気がする。 それから、同じ著者でもう1冊。 『影の中の影』月村了衛(新潮社、2015)
これもアマゾンの内容紹介から。 レビューを眺めると酷評も散見される。いわく、「『機龍警察』に比べ、単発モノは展開もプロットもみな同じ」「マンガ的」などなど。 まあ、たしかにそういう面もあるように思うし、作品は違えどパターン化した描写が繰り返されているような部分も見受けられる。とはいえ、本書も広い意味での「冒険小説」(でしょう)だと考えれば、大枠での展開やプロットが似てくるのは古今東西そういうもんでは? とも思うし。 なにより本書を読んで、いやまあ絶妙な設定だよな、と感じ入ったのは、新疆ウイグル自治区に対する中国政府によるこれまでの強硬な対応から、"あながち荒唐無稽とも言い切れない物語"を紡いでいるところ。詳しくは書けないけど、これがホントーに、えげつない。だけれども、これまで現実世界で起こっている事件などから、「もしかすると、ひょっとすると、あるかも…」と思わせるところが、さすがに『機龍警察』の書き手だなぁ、と思うのである。それに、上の内容紹介にある「中国の刺客」との戦闘場面の舞台なども、"いまどき感"にあふれており、そういったもろもろのネタを取り入れつつ、リーダビリティに富む現代の冒険小説となっているように感じた。 以上、月村了衛の2冊、どちらも楽しめた。 でも、早く『機龍警察』の最新刊が読みたいなぁ。
by t-mkM
| 2016-05-10 01:10
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