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『土の記』を読んだ

以前に居酒屋で知り合いと飲んだ際、「とにかくいいから読んで!」と、いつになく不思議なすすめ方をされたのだが、そんなに言うのならと、読んでみた。

『土の記 上・下』高村薫(新潮社、2016)

アマゾンを見てみると、なにやら劇的な展開が待ち受けているような内容紹介が書かれている。
読んだから言わせてもらうけど、これは明らかに書きすぎ。本書は、この手のあらすじはまったく見ずに読むのが正解。というか、予備知識ゼロで読み始めるのがいい。

…とはいえ、冒頭からなんとも読みづらいこと。
読みづらい、というのは正確ではないな。物語に入っていけない、というか、そもそも物語がいつになったら立ち上がるのか? 雨の降り続くシーンから始まって、交通事故で寝たきりとなった妻を長年の介護の末に亡くしたばかりの老夫、伊佐夫の、時系列が混濁しているかのような回想場面やら独白のシーンが繰り返し綴られる…。
上巻の半分ほどまでは、なんだかジリジリして読み進むことになる。けど、「こりゃもう読めないかなぁ」といったような感じではなくて、不思議とページをめくるんだな、これが。

下巻に入る頃には、リーダビリティがあがり、奈良の、老人がほとんどをしめる限られたコミュニティ(そしてどこかで親類として繋がっていたりする)である山村での暮らしで、いろいろと起こるイベントが描かれるものの、ハッキリとしたストーリーはほぼない。
一貫して変わらないのは、タイトルにもあるけど、伊佐夫が実験のように繰り返す農作業のあれこれがミクロの視点にまで微に入り書かれること、そして、「否」をくり返しながらも脈絡無く思索を巡らせていくかのような文体。

ラストに至って、「えっ」と絶句してしまうようなエンディングが強烈。
なぜ2010年から話しが始まるのか、どうして舞台が奈良の山村なのか、そして、2011年3月11日を前後して書かれていること、すべてはラストで一気に腑に落ちて、胸の内で昇華される。

ちなみに。
高村薫の新作なので、いくつも書評があがっているけど、いちばんしっくりきたのは、以下の文藝春秋の鼎談書評における片山杜秀氏によるもの。
http://gekkan.bunshun.jp/articles/-/2125


by t-mkM | 2017-09-15 01:36 | Trackback | Comments(0)
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