よく行く図書館の新刊コーナーで、偶然、目に止まったので借り出して読んでみた。
『評伝 島成郎』佐藤幹夫(筑摩書房、2018) 以下はアマゾンの内容紹介から。 ブント書記長として六〇年安保で一敗地にまみれた島成郎が、次に向かったのは沖縄だった。一精神科医として政治を封印し、逆境の中で地域精神医療を一心に粘り強く担った島成郎。それはまさに“敵”の本丸に向かって攻め込む闘いの人生そのものだった。霧に閉ざされていた彼の後半生、もうひとつの闘いを、圧倒的な取材をもとに描く書下ろし評伝。 60年安保闘争を主導したブント(共産主義者同盟)のリーダーで、"アンポ"敗北後は大学に戻って精神科医となって沖縄へ行った…、という程度はなんとなく知ってはいた。そうは言っても、"すでに過去の人だろう"と思っていた「島成郎」だけど、彼の生涯をトータルにふり返るこの著作を読むと、著者の多大なる熱量もあってか、意外なほど「現在」にも通じる問題意識と射程の広さ、長さが印象に残る。かなり骨太の著作ではあるけど、読み応えがあった。 冒頭、共産党と決別してブントを立ち上げたにも関わらず、その共産党の幹部であった瀬長亀次郎との隠れた交流が、いくつかの傍証から推測されるのには驚かされた。また後半、若手の精神科医として沖縄に渡ってからの活躍が、島と交流のあったさまざまな立場の方の証言から再構成されていくのだが、生涯にわたり「人に出会い、集めて組織し、何ごとかをやり、後続に影響を与えていく」という感じ。ブント時代のオルグを思わせる。 新刊なので、まだ書評などがほとんど出ていないけど、ググってみると毎日新聞の記事が上がっていた。その記事の最後に、こんなことが書いてある。 歴史的に見て、ブントを源流の一つとする新左翼の思想・運動は、ひとくくりにできない複雑な要素をもつ。一方の極には内ゲバやテロなどの凄惨(せいさん)な事件があり、暗部を消し去ることはできない。しかし別の面では、草の根から社会の矛盾を問う地道な活動の担い手も生み出してきた。本書が描く島の軌跡は、その前向きな面を示す象徴的な事例と感じられる。 「その前向きな面を示す象徴的な事例」とあるけど、島が精神科医として沖縄に渡り、その地域に根ざし、(大きく言えば)日本における精神科医療に対して戦いを挑んだ記録とも、本書は読めるだろうか。 島が亡くなってから18年近く。汲み取るべき「遺産」は意外にも深くて大きい、と感じた。
by t-mkM
| 2018-04-05 00:55
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