『上を向いてアルコール』を興味深く読む

著者である小田嶋氏がアルコール依存症を患ったことがあるのは知っていたので、この本も興味深く手に取った。表紙もなかなか凝っている。

『上を向いてアルコール 元「アル中」コラムニストの告白』
小田嶋隆(ミシマ社、2018)

以下はアマゾンの内容紹介より。

「50で人格崩壊、60で死ぬ」。医者から宣告を受けて20年——
なぜ、オレだけが脱け出せたのか?

「その後」に待ち受けていた世界とは??
壮絶! なのに抱腹絶倒

何かに依存しているすべての人へ

アル中は遠くにありて思うものです。
山にかかる雲と同じで、その中にいる人には、なかなか気づくことができません。
一度、雲の外に出てみないと、視界が確保できないからです。
私の告白が、雲の中で苦しんでいる仲間にとっての蜘蛛の糸みたいなものになったら良いなと思っています。
まあ、私はお釈迦さまではないわけですが。
(告白─ 「まえがき」に代えて より)


アマゾンのレビューを見ると、面白いことに、総数は少ないものの、賛否が完全に分かれている。星5つと星1つだけで、その比率2:1。それほど極端な内容ではないように思うのだが。

人はなぜアル中になるまで飲むのか?
依存症一般に言えることだと思うが、依存症でない人には、「どうしてそこまで飲むのか(食べるのか、やるのか)?」というのは、謎である。何か深い理由があるんだろう、たとえば憂さを晴らすために飲むといった歌はたくさんあるし…、などと思う。けれども、著者に言わせると、まず飲んじゃったが先にある、理由は後付け、なんだそうだ。

これは裏返せば要するに「誰でもがアル中になる可能性がある」とも言える。
いやまあ、ワタクシも他人事ではない。

前半で描かれる、著者がしだいにアルコール依存の深みにハマッていき、身体の不調が表にあらわれてくるところなど、文章のノリはよくて軽いものの、なかなか壮絶である。足がむくみ、スネを指で押すと指が埋まるなんて、にわかには信じがたい。

また、依存症を克服するために(だけではないけど)何かを我慢する、というマインドセットでは、人間、持って半年なんだとか。何かを我慢するというのは、それくらい無理があるそうだ。だから、生活を一からプランニングしていって、「アルコールのない生活」というのを確立しなければ、アルコール依存からは抜け出せないそうで、それには「知性」が必要だとも。
著者は、主治医からこの言葉を言われたそうだけど、いろいろと考えさせられる。

最後のほうで、タバコを止めたのは、ほぼいいことづくめだったが、アルコールはそうではなく、トータルではよいことが多かったものの、アルコールのない生活で失ったものも確かにある、と書いている。たとえて言えば、4LDKの家で2部屋だけ使って住んでいるような感じ、だそうだ。つまり、残りの2部屋は「開かずの間」ということになる。
これはこれで喪失感というか「もったいない感」があるよなぁ。

この本、すでに依存症である人には効かないかもしれないけど、アル中に片足つっこんでいる憶えがある人や、その自覚がうっすらとでもある人には、いろいろ有益ではないでしょうか。
まあ、自戒をこめて。


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by t-mkM | 2018-05-09 01:13 | Trackback | Comments(0)
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