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トランプ大統領の言動の背景

なんとも過激なタイトルだけど、読んでみると、そう思わせるだけの思想史的な背景があるんだと分かる。

『破綻するアメリカ』会田弘継(岩波現代全書、2017)

以下はアマゾンの内容紹介から。

アメリカの白人中間層に蔓延する絶望感。マイノリティへの逆襲。過激化するアイデンティティ・ポリティクスへの反動。「ネオコン」の衰退から「オルタナ右翼」の台頭へ。輝きを見せていたアメリカン・ドリームは萎み、一九六〇年代までに築きあげた自由・平和・民主の伝統は、自壊への道をたどりつつある。選別と排除とを真正面に掲げて「アメリカ・ファースト」を叫ぶトランプ政権は、なぜ生まれたのか。分裂・混乱・破綻の様相を呈するアメリカの「大変動」はどこから来てどこに向かうのか。政治・経済・文化・思想史の四つの角度から掘り下げて明らかにする。

現状分析の本なのかと思いきや、そういう側面ももちろんあるけど、アメリカにおける左・右の両陣営(民主党と共和党、とも言える)に影響を与えてきた思想の変遷について、少し歴史をさかのぼって詳しく追っている。この辺、固有名詞が頻発することもあり、なかなかアタマに入ってこないようなところもあるため、要約し難い。けど、トランプ大統領の出現が、決して偶然の産物ではなく、この20~30年間におけるアメリカの紆余曲折を経た上でのものであるし、日本では「またか」といった感じで色物めいた報道をされがちな彼のトリッキーな言動すらも、根拠と背景がたしかにあるんだなぁ、と。

ひとつだけ印象的なところをあげておくと、元世界銀行の主任エコノミスト、ブランコ・ミラノビッチが作成した、1988年から2008年まで20年間の、世界の一人当たりの実質所得の伸び率を百分位で示したグラフ。

これを見ると、最上位の1%(ここは欧米の超富裕層)と中位の50/100あたり(この辺は中国、インド、タイなどアジアの新興国の中産階級にあたる)の伸び率がめざましい。一方で、80/100あたりは、この20年間、ほとんど所得が伸びていない。で、ここには日・米・欧など先進諸国の下層中産階級が相当するんだとか。
著者もあとがきでふれていたけど、この問題について、途上国へのしわ寄せなしにどうやって解決の道筋を見いだすのか。それは、一国の民主主義では難しい、だろうと。
つまりは日本も例外ではない、世界的な課題でもある。

国内に流通するマスコミ報道だけでは見えてこない背景が、いろいろと興味深かった。


by t-mkM | 2018-06-26 01:45 | Trackback | Comments(0)


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