以前、高橋和巳『邪宗門』という一大長篇小説を読んだ。
そのときの簡単な感想をブログにも書いた↓けど、確認するともう4年前だ。 https://tmasasa.exblog.jp/23600314/ そのエントリのなかで、次のように書いた。 その昔、大学の教養部で授業を受けていた頃。 ということで、ようやくだけど、その小説を読んでみた。 『悲の器』高橋和巳(河出文庫、2016) いまどき、高橋和巳の小説が巷でどれほど受け入れられるのか分からないけど、『邪宗門』の復刊以後、高橋の長篇小説が河出文庫で次々復刊されているので、それなりに需要があるんだろう。とはいえ、この『悲の器』だって文庫で1300円(税別)。いやなかなか… 以下はアマゾンにある『悲の器』(復刊した河出文庫版)の内容紹介。 正木典膳は法学部教授。神経を病んだ妻をもつ彼は、やがて家政婦と関係を持つ。しかし妻の死後、彼は知人の令嬢と婚約し、家政婦から婚約不履行で告訴される。三九歳で早逝した天才作家のデビュー作となった第一回文藝賞受賞作。戦後文学の金字塔! 文庫の裏表紙を見ると、ここにある紹介文に加えて、 「孤高の一法学者がたどる転落の道。戦後日本の歴史パノラマに、傲慢、愛欲、エゴを描いて凄絶極まりない」(亀山郁夫)。という一文もある。 この小説も530ページ。改行が少なく、びっちりと活字で埋まったページは漢字が多いゆえ、その黒いこと。 じつは一度トライしたものの、冒頭のところで投げ出した。 今回、それを超えて読み進んでみると、相変わらず読みにくく、いつまでたってもリーダビリティは上がっていかないのだけど、その文章自体の磁力とでも言えばいいか、そんなところに引きつけられる。(でもまあ、横になって読んでると眠くなるんだけど) 先のエントリでも"波瀾万丈の壮大なる大河ドラマ"と書いた『邪宗門』とは異なり、作風はさらに陰鬱としている。ストーリーとしては上の紹介にあるとおりで、波瀾万丈は無いと言っていい。主人公が法学者の大家なので、登場人物の言動や行動のいちいちに対して、論理や理路をもって主人公が回想する。彼を訴える家政婦にしてからも、婚約不履行で訴えているとは言え、法学者を相手に整然と反論するのである。そして現在の目線からすると、女性差別をはじめ、各所で顔を覗かせる差別的視点にはちょっと意外な感がする。 そんなこんなで、この正木典膳という、おそらく東大がモデルとおぼしき法学部教授で学部長の主人公はまったく鼻持ちならない主人公ではある。けど中盤に至り、戦中から戦後にかけて、彼も含む同窓や同僚の法学者、知識人といった人々の言動や身の処し方などが語られていくのだけど、国の体制が激変するなかでのインテリたちの行動や、対する主人公の見解など、なんだかミョーに既視感を感じさせ、現在に通じるものがある。 どういう着地をするのか、まったく最後までと予想させないのだが、全てを振り切って孤絶へと踏み出すかのようなラスト。インパクト大である。これが当時31歳、文壇デビュー作というのだから、恐れ入る。
by t-mkM
| 2018-09-19 01:04
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Comments(2)
「悲の器」の読後感を読みました。私はもう大学生の頃読んで、はまりました。それから50年近くたっていて、今でも河出書房で出しているので、読む人がいるようには思いますが、それはそうでも、日本国内限定です。今、また世界は混迷して、若い人たちが厳しい状況下に置かれています。それで、著作権継承者の許諾を得て、英訳して無料公開しました。
http://wisteriafield.jp/vesselofsorrow/vosindex.html お知り合いの外国の人にお伝えいただければ幸いです。
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t-mkM at 2021-01-04 08:55
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