まとまった感想を書けていないけど、このところ読んだ本の中から、印象に残ったものを。 『新復興論』小松理虔(ゲンロン叢書、2018) 東浩紀が主宰する株式会社ゲンロンの叢書第一弾。 在住する福島県いわき市小名浜で、震災の復興に関わってきた著者による、400ページにおよぶ著作。「食と復興」「原発と復興」「文化と復興」の三部からなり、それぞれが同分量で展開される。 被災地の現場で活動してきた著者ならではの視点による、興味深い論点や記述にひかれる。とはいえ、研究者による理論を引用するなど、小難しい話しは一切出てこない。あくまでも、現場からのリアルな目線による、いまだからこそ書かれた”批評”で、試行錯誤しながらのエピソードなど、読んでいて面白い。 以下は最後のほうで書かれていた箇所から。 …地域づくりに必要な人を「ヨソモノ・ワカモノ・バカモノ」と言う。この三つを言い換えれば、そのまま「外部・未来・ふまじめ」になる。当然、被災した土地の未来は、そこに暮らす人たちが決めるべきだし、怪しいコンサルの話しを聞く必要もない。しかし、地域の決断は、「今この私」と「外部・未来・ふまじめ」を何度も何度も往復した末にあるべきだ。未来と外部を切り捨ててはならない。なぜなら私たちの地域は「今この私」だけのものではないからだ。これは、小名浜という地域で、地域づくりや食に関わる私の、実践者としての信念でもある。偶然に移り住むかもしれない人たち、震災のことなんて分からない未来の子どもたち、本当は関心を持っていたのに言葉を発するのをためらっていた人たち、そして、膨大な数の死者たち。そのような人たちを切り捨てた復興であってはならないのだ。そう思えばこそ、愛する地元との間に適度な余白ができる。愛するでもなく、すべてを憎むでもなく。まるで観光客のように地域と関わることができると思う。 『うどん キツネつきの』高山羽根子(創元SF文庫、2016) 最新作である『オブジェクタム』が、なんだかよくわからないけどちょっと面白くはあったので、以前の作品にも手を出してみた。 5つの短篇が収録され、タイトルにもなった短篇で創元SF短篇賞佳作を受賞した、とある。受賞作が最初に収録されているけど、後になるほど物語の世界観が広がっていくようで、「おやすみラジオ」「巨きなものの還る場所」といった作品のほうが、より印象に残ったかな。 これがSFか? 読みながらそういう思いがよぎるが、読み終わると「ほー、まさしくSF」という感じ。 『地球星人』村田沙耶香(新潮社、2018) 『コンビニ人間』で芥川賞を受賞した著者の、受賞後2年ぶりの長篇。 アマゾンなどには「衝撃のラスト」なんて書かれてるけど、まあ、そんな煽りは脇において読むのがいいのではないか。 『コンビニ人間』ほどにはリアル感があるわけではなく、ストーリー展開も「果たしてどこに行くのやら」と思わせられながらの読書ではあったけど、たしかに「えっ!?」という驚きの結末には、「ここまで行っちゃうのか」という感もある。主人公たちとその周囲の人物たちとの間には、はじめから虚実の被膜みたいなものがある。ただ、話が進むにつれて、その”膜”がしだいに曖昧になってきて、ラストに向けて虚と実が浸透しあうかのようにたたみかけてくる、そのあたりがなんとも言えずにムズムズするような感じ。 なんというか、アプローチの方向が異なればSFということにもなりえるんだろうけど、それにしてもこの先、どこに行くのか? どこまでを描くのか? ちょっと注目である。
by t-mkM
| 2018-10-05 01:27
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