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見落としていた傑作『ローズ・アンダーファイア』

なにがきっかけだったか、もはや覚えていないけど、図書館に予約していた本がようやく届いたので読んでみた。

『ローズ・アンダーファイア』エリザベス・ウェイン/吉澤康子 訳(創元推理文庫、2018)

同じ著者による前作『コードネーム・ヴェリティ』の姉妹編だそうで、登場人物もダブっているけど、独立した物語とのこと。この『コードネーム・ヴェリティ』、2017年にけっこう注目された小説だったようで、同年のベストテン企画にも上位に入っているほどなんだけど、いやぁ、知らなかった。

以下はアマゾンにある内容紹介から。

1944年9月。飛行士のローズは、戦闘機を輸送する途中でドイツ軍に捕まり、ラーフェンスブリュック強制収容所に送られる。飢えや寒さに苦しみながら苛酷な労働に従事するローズ。収容所で出会った仲間と生き延び、窮地を脱するための意外な方策とは―。戦争に翻弄される女性たちの絆と闘い。日記や手紙で構成された、先の見えない展開の果てに待つ圧巻の結末が胸を打つ傑作!

主人公のローズ、18歳の女性。アメリカ人でありながら、イギリス軍の補助航空部隊に所属し、飛行機の輸送に携わっている。つまり、戦闘機乗りではない飛行士、ということ。
で、このローズが輸送中のトラブルが引き金でドイツ軍に捕まり、そうこうしているうちにラーフェンスブリュック強制収容所(女子の収容所)に入れられてしまう。

このラーフェンスブリュック強制収容所は実在したもので、著者のあとがきによると、収容所の中での記述はほぼ事実とのことで、様々な記録や証言集を読み込んで書いたらしい。(巻末には参考にした資料の出典も載っている)

中盤、ローズがこの収容所に入れられてからの日常や、周囲の囚人たちの様子や同室の囚人たちとの交流、また収容所の職員(もちろんナチスの一員)たちの言動や行動に翻弄されるさまなど、文字どおり、死と隣り合わせの、明日には処刑されるかもしれないという理不尽な緊張感に晒される日々が、ホント、見てきたかのように描写される。
フランクル『夜と霧』やプリーモ・レーヴィのアウシュビッツ体験記もズシンと来たけど、この本でのラーフェンスブリュック収容所の描写は、別の意味でさらにリアルだ。

この収容所には、いろんな国のいろんな女性が入れられており、数カ国語が飛び交いながらも、生き延びるため、同室や周囲の女性たちと様々にコミュニケーションを取り、協力し合う。加えて、職員、囚人という関係だけでなく、囚人どうしの間での重層的な関係なども詳しく描かれていて、彼女たちの内面までがヒシヒシと伝わってくる。

また、仲間とともに脱出したのち(この脱出の場面も冒険小説のようではあるんだけど)、ナチスによる強制収容所を断罪する裁判が始まり、脱出した彼女たちは証言台に立つよう要請されたり、他の場所でも強制収容所での体験を語る機会を得たりする。…なんだけど、中途で声が出なくなったり、当時の体験がフラッシュバックされて出廷できなくなるなど、このあたりは「むう」と唸るほかなく、強く印象に残る。

かといって、暗く重い内容かというと、そんなことはなくて、バラエティに富んだ登場人物のおかげもあって、トーンとしてはむしろ爽快とも言える。そして後半に至っての、飛行機が飛ぶときの必要条件とも絡めた構成が凝っており、ラストの場面ともリンクしていて、とてもウマい。
また、本書では詩があちこちに出てきて、重要や位置を占めている。小説では珍しいように思うけど、主人公のローズも”詩人”としての側面が強調されてもおり、作中でのローズの詩の使われ方も効果をあげている。

読み終わってからも、内容が後を引くというか、アタマに残り続ける小説だ。
もう一つの『コードネーム・ヴェリティ』も読んで見なくては。



by t-mkM | 2019-01-24 01:18 | Trackback | Comments(0)


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