最近出た新書を読んだ際、最後のところで肯定的に言及されているのを見かけたので、「これは」と思い、さっそく図書館にリクエストしたところ、間をおかずに来たので、さっそく読んでみた。
『東大闘争の語り 社会運動の予示と戦略』小杉亮子(新曜社、2018) やはり60年代から70年代初頭にかけて盛り上がった学生運動を総括する書として、以前、同じ版元から小熊英二による『1968』という2000ページにも及ぶ上下本が出ていて、そちらも(寝ながら読むのに苦労したけど)だいぶ前に読んだ。 『1968』は、当事者へのインタビューなどを一切せずに、当時に出されたビラや声明、関連する書籍などの文字情報だけを元に分析したものだった。それゆえか、当事者へ聞き取りをしないことなど、いろいろと批判されていた。 一方、こちらの『東大闘争の語り』は、新左翼、ノンセクト、共産党・民青など、各派の44名からけっこうじっくりと聞き取り調査を行い(数年間かかっている)、その上で独自の視点で当時の東大闘争の内実にまで入り込んで分析を行なった労作。 まあ『1968』も大変な労作だと感じたけど、この『東大闘争の語り』も、とても読みごたえがあった。著者の博士論文を元にした、言ってみれば学術書ではあるんだけど、まず、読み物として面白く読めたのは、ちょっとした驚き。 60年代後半の学生運動というと、必ずといっていいほど69年1月の安田講堂における全共闘の「攻防戦」にまつわる映像が出てきて、講堂を封鎖した学生が屋上から火炎瓶やらを投げる姿などが映る。これに後年の連合赤軍の顛末なども加わり、「跳ね上がった学生が無茶をした挙句の転落、末路」みたいなことでまとめられる。著者の意図は、そういう否定的なイメージを打破して、今に受けつくべき教訓や遺産を引き出すことも目的の一つだったよう。 で、多くの「東大闘争」当事者の方々から、その生い立ちにまで遡る聞き取り調査を実施した上での分析を通じ、「予示的政治」という概念を抽出したことで、その意図はそれなりに成功しているのではないか。 大部な著作なので、簡潔に語るのが難しいけど、本書のメインの内容をまとめた箇所が、最後のところで目についたので、引いておく。 次に、東大闘争の展開過程では、多元的アクターの分極化が生じた。この時期、大学執行部の交替、日本共産党の方針転換、ストライキ反対派学生の組織化、”外人部隊”の導入と学生間の暴力的衝突など複数の要因によって、闘争終結に向けた動きとそれに対抗する動きが加速し、対立が激化していった。このとき、左翼学生運動文化の延長線上で、学部や学科単位で自生的かつ自発的に抗議活動が組織されており、また、少なくとも全共闘派には統一方針や明確な指揮系統は存在しなかったため、どの立場にいる参加者にも全体状況の見通しがきかないほど混乱を極め、不確実性が高まった。 これまで、いわゆる60年代後半の学生運動ものをいくつか読んだけど、全共闘が「自己否定」や「大学解体」を叫ぶのはまだ分かるものの、占拠していた安田講堂にあくまでも立てこもり、なぜ機動隊と一戦を交えるまでに至るのかがよく分からなかった。けれど、この『東大闘争の語り』を読むと、わずか1ヶ月ほどの単位で情勢が激変していく中、ああいう流れはもはや制御できないもので、「どう散るのか(負けるのか)が大事」みたいな感情もあり、必然だったのもしれないなぁと、なんとなく腑に落ちたように思えた。(にしても、個々のレベルで失うものは大きかっただろうが) 歴史の評価として、また『1968』の視点を相対化するものとして、個人的にはとても興味深く読めた。 参考: 対談:小杉亮子 X 福岡安則 東大闘争が問うたもの 己の生き方を今問うために 『東大闘争の語り 社会運動の予示と戦略』(新曜社)の刊行を機に https://dokushojin.com/article.html?i=3350
by t-mkM
| 2019-03-13 01:35
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