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久しぶりに読んだ神林長平の長編SF

ふとしたことから目にした、東京新聞のコラム「大波小波」で、けっこう”絶賛”されていたので、「へぇ」と思って読んでみた。

『オーバーロードの街』神林長平(朝日新聞出版、2017)

その「大波小波」、2017年11月13日付と思われるが、該当部分を引用してみる。

「虐待を受けて育った少女に「地球の意思」なる知性体が乗り移り、それを契機に無差別同族殺戮や金融システムの崩壊が起こる。しかし本書はこけおどしのスペクタクルには走らず、ほとんど小舞台演劇のような限定された空間に終始する。自分が破滅の引き金になっていると知らぬまま、彼女はやがて心の底に渦巻く母への憎悪に気付くのだ。
(...中略…)母娘の葛藤を巡って数えきれない作品が書かれてきたが、本書は一つの極限を描いたといっても過言ではない。」

単行本で500ページを超える大部で、なかなかの読み応え。
上に引用した「大波小波」氏の評価に、ワタクシも基本的には共感するし、「パワードスーツ」といった、実用化も遠くないような技術やAI関連の機器が、別の意思を持つかのように暴走する、という視点も斬新で面白い。

けどまあ、後半に至るとストーリー的にはやや失速している面は否めないだろうと思うし、「地球の意思」を巡って交わされる会話や推論などは、ちょっと観念的で思弁的にすぎるところもあり、それゆえに、母娘の葛藤に関わる部分が遠回りさせられている感じもした。

本書が実際のところ、どれくらい話題になったのか(ならなかったのか)、気になる。


by t-mkM | 2019-06-04 01:43 | Trackback | Comments(0)


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