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最近の雑誌から

緊急事態宣言が解除され、日常に戻りつつある中、近所の図書館も窓口対応のみから在架図書エリアの立入や借り出しもようやく可能になってきた。
なので、この間、手に取ることができなかった雑誌類にアクセスして、まとめて借り出した。

そんななかで、印象に残った記事から、備忘録としてメモしておく。
まずは、「月刊みすず」2020年3月号。

精神科医の松本俊彦氏による断続的な連載「依存症、かえられるもの/かえられないもの 7」。
今回のタイトルは「カフェイン・カンカータ」。

医学生時代を回想して、最後の2年間をカフェインとともにがむしゃらに勉強し、なんとか卒業にこぎつけた経緯が専門の目線からも興味深く語られているんだけど、それはそれとして、以下、目にとまった文章をメモ。

 そしていま、二十年あまりの依存症臨床の経験を経て確信しているのは、あらゆる薬物のなかでもっとも心身の健康被害が深刻なのは、まちがいなくアルコールであるということだ。実際、アルコール依存症患者の多くが、糖尿病や高血圧、高脂血症といった生活習慣病の塊であり、肝臓や膵臓、心臓の障害はもとより、多発神経炎や脳萎縮のような非可逆的障害を抱えている。それに比べると、覚せい剤依存症患者は、若々しくピンピンしている。実際、臓器障害も脳の萎縮もまったく見当たらないことが多いのだ。
(中略)
 断言しておきたい。もっとも人を粗暴にする薬物はアルコールだ。さまざまな暴力犯罪、児童虐待やドメスティックバイオレンス、交通事故といった事件の多くで、その背景にアルコール酩酊の影響があり、その数は覚せい剤とは比較にならない。
(p7)

 われわれが肝に銘じておくべきなのは、どの民族、どの文化もそれぞれお気に入りの薬物があり、その薬物を上手に使いながらコミュニティを維持してきた、という事実だ。メキシコ人にとっての大麻、ペルー人にとってのコカの葉、アメリカ先住民にとってのペヨーテなど、数え上げればキリがない。かつて清朝時代に中国を訪れた英国人は、中国人が日常的にあへんを使用していることに驚いたが、そのとき当の中国人は、英国人がアルコール度数の高いウィスキーをうまそうに飲むのを見て腰を抜かしたという逸話が残っている。
(p11)

 最近つくづく思うことがある。それは、この世には「よい薬物」も「悪い薬物」もなく、あるのは薬物の「よい使い方」と「悪い使い方」だけである、ということだ。これが、「なぜアルコールはよくて、覚せい剤がダメなのか」というあの患者の問いかけに対する、私なりの答えだ。
 そして、この答えには続きがある。「悪い使い方」をする人は、必ずや薬物とは別に何か困りごとや悩みごとを抱えている。それこそが、私が医師として薬物依存症患者と向き合いつづけている理由なのだ。
(p13)



by t-mkM | 2020-06-17 01:47 | Trackback | Comments(0)


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