この数ヶ月間のうちで、全共闘や1968年前後の学生運動に焦点をあてた本を3冊ほど読んだので、ちょっと感想を書いておくことにする。
読んだのは以下の3冊。(読了順) (1)『思想としての全共闘世代』小阪修平(ちくま新書) (2)『1968年』すが秀実(ちくま新書) (3)『安田講堂 1968-1969』島泰三(中公新書) ワタクシが大学に入ったのは、「政治の季節」もとうの昔に過ぎ去った1980年半ば。 ただ、入学した大学のキャンパスには党派のタテカンを見かけたし、講義室ではビラがまかれたりはしていた。と言っても、70年代とは比較にならない程度なのだろうけど。まあ多少の違いはあれ、その当時はどこの大学でも見られた光景なんだろうと思う。 それに比べると、今の大学にはほとんどタテカンなんて見ないけど。 それにしても、なぜ今さらこういった本を読む気になったのかといえば、単純に興味があるからなんだけど、加えて言えば、立て続けに新刊が出されたせいでもある。 全共闘関連の本というのは、これまでにも集中的に出版される時期があったけど、今もそうした時期なのか。 まあ、団塊の世代が定年を迎えはじめるということもあって、自分たちの世代が過ごしてきた歴史をふたたび見つめ直したい、といった動機が(他の世代にも?)共有されているのかもしれない。 (ちなみにこの種の本って、どれくらい売れているのだろうか?) ここであげた3冊で共通してまず指摘されているのは、全共闘運動が起こった当時の政治経済的な背景である。簡単にいうと、激しくなるベトナム戦争、そしてその戦争に対する抗議行動や反米意識の世界的な高まり、といったことだ。 つまり、このへんの国際情勢や国内的な政治状況などをそれなり以上に理解しないと、「なぜ全共闘運動はあれほど盛り上がって、そして急速に下火になったのか」は分からない、ということでもある。 ある運動なり事件なりを事後的にふり返って検証するさい、その当時のさまざまな背景を十分に身につけておかないと、事の是非は別にして「なんでそういう行動をとったのか」への理解は及ばないだろう。 したがってもちろん、この3冊を読んだだけでは、全共闘運動の全貌というのが見えてくるわけではない。(だったら参考図書も読めば? ということになるのだけど、まあこれはこれ、それはそれで。読みたい本は他にいくらもあるし...) ただ、長らく不明確だった点がハッキリしたことや、新しい指摘もけっこうあって、わりと収穫があった。 たとえば(1)で、いわゆる「三派全学連」と全共闘とは、結果的に重なり合う部分があるにせよ組織としては全く別であるとか、各党派ごとのカラーの違い(いちばん都会的だったのは革マル派だとか)などは、「へぇ」という感じ。 また(2)で言及されていた、「べ平漣」(ベトナムに平和を!市民連合)にはソ連共産党が関係していたとか、在日中国人によるマイノリティ差別の告発が新左翼諸党派内部に与えた影響、ひいてはそれが内ゲバにもつながっていくといった指摘には、「なるほどねぇ」と思わされたし。 ただ、(3)だけはちょっと独りよがりな印象を持った。 テレビの資料映像で、東大の安田講堂に籠城した学生に向けて放水や催涙ガスが投下されているシーンがあるけど、著者は当時、その安田講堂に最後まで立てこもった学生のひとり。 安田講堂への籠城・「落城」までの経緯が順をおって詳細に記されてはいるものの、なぜそこまで闘うのか、なぜ「バリケード封鎖で籠城」なのかが今ひとつ伝わってこない。その当時と現在とで、「暴力」というものに対する人々の感受性が違っているからだろうか。30数年経っても怒っていることはよく分かるのだけど。 総じて、当時、全共闘を含む各党派で学生運動を積極的に担った方々にとっては、いまだその「運動」は終わっていない、と言えるのかもしれない。 そういえば内田センセイのブログ日記に「政治を弔うということ」というエントリがあって、うなずける記述があったの思い出したので、以下に引いておく。
http://blog.tatsuru.com/archives/001693.php 内田センセイは「東大全共闘は政治運動としてある種の完結性をもつことができた」と書いているけれど、他の大学ではどうだったのだろう。 そして全共闘運動の総体としては。 気になるところではある。
by t-mkM
| 2006-12-21 23:50
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