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山口瞳の『居酒屋兆治』

久しぶりに『酒とつまみ』なんて雑誌を買ったせいか、飲み屋のことを書いた本でも読んでみたくなって、先日、図書館をうろうろしていたら、
山口瞳の 『居酒屋兆治』(新潮文庫)が目に止まったので、借りて読んでみました。

山口瞳といえば、最近は再評価がされているようで、この数年で新たなエッセイ集が編まれたりしています。この間、そういう動きが気になりつつも、結局、山口瞳の著作をまともに読んだことはありませんでした。ましてや小説は初めて。

内容は、脱サラした主人公が開いた小さな居酒屋(モツ焼きが主)に集う常連客とのやりとりを描いたもので、かつて付き合った女性に絡むエピソード出てくるものの、これといったストーリーはありません。
なんといっても、主人公の兆治(本名はべつにあるのだが)と常連客との会話がいいですね。それに、会話と会話との間(ま)の置かれ方が何とも言えず、おみごと。

この『居酒屋兆治』について、高倉健の主演で映画化されていることや、モデルとなった居酒屋が国立にある文蔵という店であることは、わりと有名は話しなので知ってはいました。もしかすると、そういった先行する情報が(ゆがんで)頭にこびりついていたこともあって、山口瞳の本をなんとなく敬遠していたのかもしれません。

それからちょっと気になったのは、数は少ないものの暴力をふるう場面がリアルだったこと。
最近の小説だと、ミステリー関連を除くと、あからさまな暴力シーンにはあまりお目にかからないような気がします。(DVがあるくらいでしょうか?)でも『居酒屋兆治』では、店主が客を(理由があるにせよ)殴るんですね。そして殴られたあとでも、その常連客はフツーに兆治に通っていたりするんです。たぶん、地域住民の交流がそれだけ密接だったことの反映なのかもしれませんが、当時(1980年あたり)の世情をうかがわせるような描写ではあります。

思いのほか面白かったので、山口瞳のほかの小説も読みたくなり、図書館などを探したのだけど、これがちょっと見当たらず。仕方がないので、今日、近所の古本屋で見つけた「男性自身」からのエッセイを編集した文庫本を2冊購入しました。

読みたいときに、読みたい本はなかなか手に入らないなぁ。
by t-mkM | 2007-02-01 22:39 | Trackback(1) | Comments(0)
Tracked from 1-kakaku.com at 2007-04-19 14:19
タイトル : 居酒屋兆治
北海道・函館。脱サラして小さなもつ焼き屋「兆治」を営む英治(高倉健)と茂子(加藤登紀子)の夫婦。しかし、平凡ながらも幸せな日々を送っていた英治の前に、かつての恋人さよ(大原麗子)が現われた。英治のことが忘れられないさよは、やがてすさんだ生活に身をゆだねていく…。 山口瞳の同名小説を監督・降旗康男、撮影・木村大作、主演・高倉健の『駅STATION』トリオで映画化。久々に等身大の庶民を演じる健さんの姿は実にさわやかで観ている側も心地よく、健さん映画に欠かせない個性派俳優たちも競って店の客として...... more


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