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先週末、寒さにふるえながらも、ひさしぶりに自転車で神保町へ。
とある行きつけの古書店へ立ちより、いつものエリアをウロウロしていると(わりと広いのである)、黄色で幅のある背表紙が目についた。たしか、数年まえにわりと見かけた本だったことを思い出し、手に取ってみた。 『人間仮免中』卯月妙子(イーストプレス、2012) よくみるとマンガである。帯には、 「読み終わって10分くらい泣き続けた」 なんて書いてある。「そんなすげえ本なのか?」と思いつつ、タイトルに惹かれてとりあえず買ってみた(百均だし)。 以下はアマゾンの内容紹介から。 夫の借金と自殺、自身の病気と自殺未遂、AV女優他様々な職業… で、さっそく読んでみた。 いやー、もう、なんと言えばいいか。とくに、著者が「顔面崩壊」してからは、一気に読んだ。 ちびまる子ちゃんの絵をさらに稚拙にしたような、ほわんとした雰囲気ともいえる絵。が、それとはまったく裏腹に、語られる内容は相当にハード。キョンキョンが評していたようだけど、ひとことで言えば「壮絶」、である。すげえな、これ。 たしか、帯で著者のことを「あっちにいながら(統合失調症でありながら)、その世界をこっちに語れる、希有な存在」みたいに書かれていたけど、まさしくそのとおり。こんな立ち位置の方の文章、お目にかかったことがないように思う。 それにしても、「顔面崩壊」で病院の救急救命に運び込まれたあと、同じ病院の精神科のおざなりな対応にタンカを切って退院させてしまうお母さんとか、なにがあっても決して離れないボビーさんとか、「スゲーよなぁ」という感慨がうかぶばかり。「愛情」と、コトバで言ってしまうのは簡単だけど、いったいなんなのか。 ふだん、マンガというジャンルにほとんど手が出せていないんだれど、ときにはチェックしなくては。 ▲
by t-mkM
| 2018-01-31 01:52
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先日、佐々木俊尚氏のツイッターで、映画にもなった遠藤周作の小説『海と毒薬』の続編というか、後日譚ともいえる小説のことをツイートしていた。
「へぇ」と思い、さっそく図書館で借りだして読んでみた。以下にあるのはアマゾンの内容紹介。 『悲しみの歌』遠藤周作(新潮文庫、1981) 米兵捕虜の生体解剖事件で戦犯となった過去を持つ中年の開業医と、正義の旗印をかかげて彼を追いつめる若い新聞記者。表と裏のまったく違うエセ文化人や、無気力なぐうたら学生。そして、愛することしか知らない無類のお人好しガストン……華やかな大都会、東京新宿で人々は輪舞のようにからみ合う。――人間の弱さと悲しみを見つめ、荒涼とした現代に優しく生きるとは何かを問う。 いやもう、まったく知らなかったけど、これは面白かった。 登場人物たちがやや戯画的なこともあって、コミカルな感じさえするんだけれど、まあでも「面白い」なんていうのとは、ちょっと違うな。全体のトーンとしては暗いし、沈んでいると言ってもいいし。 昭和51年に『週刊新潮』で連載されたそうで、当時の新宿界隈の世相が(おそらくリアルに)反映されている。昭和51年というと1976年。はるか昔を思いかえしてみれば、オイルショック以後の、なんというかお世辞にも明るいとは言えない雰囲気だったように思う。 何が正義で、どこからが悪なのか? こうした問いは、いつでもどこでもハッキリとした線を引くのは難しいように思うけど、このところ、いろんなことについて白黒をつけたがるような風潮が目につくように感じる。しかも、一度「判定」されていまうと、その後もずっとその結果がつきまとうような。 この小説は、まさにそんな境遇となってしまった町医者が主人公。彼は、自身が引きずることになった過去と、現在の町医者としての顔と、それらに矛先を向けてくる世間との間で、つねに動揺し、葛藤し、揺れ動く。一方、クリスチャンであった作者らしく、登場人物のなかでも徹底的なお人好しとして描かれるガストンという人物が、なかなか印象に残ったな。 『海と毒薬』を読んでいればもちろんのこと、『海と毒薬』を知らなくても十分に読み応えのある小説。思わぬ収穫だった。 ▲
by t-mkM
| 2018-01-19 01:04
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先日エントリを書いた「原尞の新作が出る」というニュースに触発されたわけでもないのだけど、これを機に、古本屋の百均などで入手していた探偵・沢崎シリーズの初期2作を本棚から引っ張りだし、この3連休にあらためて読んでみた。(好きだよなぁ)
『そして夜は蘇る』『私が殺した少女』(ともにハヤカワ文庫JA) 再読するのは二十数年ぶりになるか。 読んだ当時と比べると、いまやハードボイルドや私立探偵といった小説のジャンルは明らかに稀少である。ミステリーは相変わらずあれこれと新作が出てくるものの、国内で見れば、ハードボイルドや私立探偵ものは絶滅危惧種と言ってもいいのではないか。 で、再読してみて感じたこと。 2作とも、じつに面白かった。 設定は80年代半ば(前半か)なので、沢崎がかける電話は携帯ではなく公衆電話だし(なにせ、テレホンカードの出現に驚いているくらいだ)、乗っているクルマはおんぼろのブルーバード(!)で、都庁はまだ東京駅の脇にある。 それでも、再読、再々読でも十分に面白く読める小説だと思った。 今回、『そして…』と『私は…』と立て続けて読んでみて発見だったのは、両者似たようなテイストだろうと思っていたら、じつはけっこう読後感が異なること。 『そして…』はデビュー作でもあり、しかも新人賞の類いではなくて出版社への持ち込み原稿(郵送だけど)だったこともあるのか、風呂敷広げすぎというか、プロットの凝り方にも過剰なものを感じる。で一方、『私は…』は直木賞受賞作でもあるけど、『そして…』に比べて書きぶりがリラックスしているというのか、プロットも伏線がいろいろあるものの、よりストレートで分かりやすく、風景や人物の描写もよりソリッドな感じを受ける。そもそも、『そして…』とは目線が異なるとでも言ったらいいか。 また、『私は…』で物語の終盤、かつてのパートナーで、とある事件のあとアル中で失踪している渡辺と、事件捜査で急ぐクルマのガラス越しに一瞬の邂逅をするシーンがあるんだけど、ラストの場面とも相まって、映像的な喚起力バツグンでつよく印象に残る。 (ネットで探索したけど、この2作についての突っ込んだ論考は見当たらず。誰か書いてないだろうか) エッセイなどでチャンドラーへの敬愛を繰り返し書いている著者。もちろん、この2作にもチャンドラー作品の影響を強く感じられるのだけど、『そして…』よりも『私は…』のほうに、チャンドラーというかフィリップ・マーロウのイメージをより強く感じた。『そして…』は、私立探偵ものに加えて、社会派的なものが色濃い感じ、とでも言えばいいか。 そして何より、『そして…』に出てくる都知事とその弟が、モロに石原兄弟を思わせること、10年後に石原都知事が現実になったということ、今回の再読ではそれらにも驚かされた。(すっかり忘れていたけど) で、この2冊をあらためて読んで、私立探偵を擁するハードボイルド小説について思ったこと。 一人称の視点なので、当たり前だけど語られる内容は探偵の視線がすべて。要するに、探偵が自分自身の意思や思惑はどうであれ、あちこちに動いていかないと物語が進んでいかない(読者には物語が進行していると思ってもらえない)。事務所で悶々と考えているだけでは、話しが展開しない。だから、とくに事件捜査ともなれば、出張っていく先々で必然的に各方面の人々や物事と衝突を起こすし、トラブルし、揉める。そうやって頻々に発生してくる問題を、強引にでも解決して(しなくても)前へ進んで行かないと、物語が進んでいかない…。 だからこそ、タフで孤独な探偵=語り手=視点人物が必要になる、そういう構造なんではないか。 …なんてことに、いまさらながら気がついたしだい。 ま、でも、これからもハードボイルド小説、読んでいくけどね。 ▲
by t-mkM
| 2018-01-11 01:31
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新年 あけましておめでとうございます。
本年も、このブログともども、古本Tをよろしくお願いいたします。 昨日が仕事始め。 朝、まだだれも来ていない職場でPCを立ち上げ、まずはネットをうろうろしていて、何と言っても驚いたのは、原尞の新作が出る!という早川書房の宣伝だ。 https://www.hayakawabooks.com/n/ne98118a27458 「14年ぶりの新刊」だそうだけど、またも7文字のタイトル。 それにしても、このページにある写真を見ると、原尞もジイさんになったよなぁ、と思わざるを得ない。まあ、デビューが40歳、1988年。あれから30年なんだから、当たり前ではあるけど。 奇しくも昨夜、先日に図書館のリサイクル本でもらってきた『ハードボイルド』という文庫のエッセイ集を読んでいたところ。これを機に、彼の過去作品を読み返してみるとするか。 ▲
by t-mkM
| 2018-01-05 00:31
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