<   2018年 04月 ( 5 )   > この月の画像一覧

沢崎シリーズ14年ぶりの新作を読んで

今年最初のエントリでも「原尞の新作が出る!」と驚いたことを書いた。
https://tmasasa.exblog.jp/27967417/
最近、なんだか知らないけど、相方がとつぜん買ってきて読み、どうもイマイチそうな感じなので、「どれどれ」と手を伸ばしてみた。

『それまでの明日』原尞(早川書房、2018)

以下は早川書房のサイトにあるあらすじから。

私立探偵・沢崎のもとを訪れた紳士が持ち込んだのはごく簡単な身辺調査のはずだった。しかし当の依頼人が忽然と姿を消し、沢崎はいつしか金融絡みの事件の渦中に。14年もの歳月をかけて遂に完成したチャンドラーの『ロング・グッドバイ』に比肩する畢生の大作。

今回、沢崎が巻き込まれる事件自体は、ハッキリ言ってショボい。
デビュー作の都知事選に絡む疑惑や、『私が殺した少女』の緊迫感に比べると、年齢のせいか、はたまた世相の反映なのか、もやもやした感が後半になるほどつきまとう感じがする。

そもそも、依頼人の持ち込んだ身辺調査は、わりとすぐに「当人がすでに死亡」となってしまうし、巻き込まれる金融絡みの事件も、金額はちょっと大きいものの、背後にうごめく組織や人物は、過去シリーズの登場人物を出すため? という感がなくもない。しかも、舞台となる金融会社の店名が「ミレニアム・ファイナンス」(!)だとか、沢崎が、いつまでも学生気分の抜けない息子のような年齢の人物と交わすやりとりでも、なんだかなぁ、という違和感を拭いきれない。

…といったような感じで、いまひとつすっきりしなかったのだけど、BOOK.asahi.comに永江朗が寄せていた書評などを読んでいて、そんな認識を改めさせられた気がした。

 探偵小説は失ったものを見つけ出そうとする物語である。この作品は、依頼された調査の結果はすぐわかるが(女将の死)、依頼人が姿を消すことで、何を見つけ出すべきかがわからなくなる。まるで現代人そのもの。

http://book.asahi.com/reviews/column/2018032700002.html


ほう、なるほど。
今作の、なんだか明確ではないストーリー展開、スッキリしない事件の顛末、自身の身近な人間関係に翻弄されたり、悩んだりする人々…。たしかに行き先が見えづらい。そういう点では、まさに現代的なのかもしれない。

最後の最後、「えっ」というラストで終わるのだけど、どうしたって、その後の(しかも確実に悲劇的であろう)展開を想像せざるを得ない。
このあと、沢崎シリーズはいかなる方向に行くのか? そもそも、新作は読めるのか?
ぜひとも読んでみたいと思うのだけど。


[PR]
by t-mkM | 2018-04-24 01:33 | Trackback | Comments(0)

『ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男』

週末、またも朝からミッドタウン日比谷に行って、映画鑑賞。
公開前からちょっと気になっていて、実際、ゲイリー・オールドマンのアカデミー主演男優賞や、日本人が特殊メイクで受賞したことでも話題になった。

以下、「フィルマークス」というサイトからのあらすじを引いておく。

第二次世界大戦初期、ナチスドイツの勢力が拡大し、フランスは陥落間近、英国にも侵略の脅威が迫っていた。連合軍がダンケルクの海岸で窮地に追い込まれる中、ヨーロッパの運命は新たに就任したばかりの英国首相ウィンストン・チャーチルの手に。ヒトラーとの和平交渉か、徹底抗戦かー。チャーチルは究極の選択を迫られる。議会の嫌われものだったチャーチルは、いかに世界の歴史を変えたのか。実話を元に、チャーチルの首相就任からダンケルクの戦いまでの知られざる4週間を描く感動の歴史エンターテインメント。

https://filmarks.com/movies/72789

上にもあるけど、描かれるのは老齢で新首相となったチャーチルが、戦時中の挙国一致内閣を率いつつ、閣内の政敵である外相・ハリファックスや前首相・チェンバレンらによるドイツ・ヒトラーとの講和を勧める提案を、悩んだあげく退け、ドイツとの徹底抗戦を議会で決するまでの4週間。これ以外、チャーチルの直近の過去なども、セリフでは出てくるものの、説明的な画像など一切画面には出てこない。
まさしく、原題である「DARKEST HOUR」(最も暗い時間)に限定して、そして首相・チャーチルに焦点を絞って描かれる。

この件の歴史的な事柄は、現代史に属することだし、中高生のときの授業でもやった憶えもあまりなく、詳しくは知らない。
それにしても、クリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』を観てもつくづく思い知らされたけど、当時、ドイツ軍の破竹の勢いは、英仏連合国を瀬戸際まで追い詰めていたんだなぁ。副題にある「世界を救った男」は、ちょっとどうかとは思うものの、「連合国側がドイツと講和してしまった第2次大戦後の世界」というのも、十分に可能性があったんだな、と感じざるを得ない。

(以下、ややネタバレします)

後半、自身の決断を迷うチャーチルが、市民の声を聞く場面があるんだけど、(ちょっとできすぎだとしても)その場の市民全員がドイツとの講和に対して「ネバー!」と叫び、ドイツとの徹底抗戦を支持するシーンが印象的だった。
歴史の結果を知っている我々の立場からは、感動的に映るんだけど(実際に泣けてくる場面なんだが)、ふり返って現在の日本や世界の状況を思うと、そう単純に感動している場合ではないよなぁ、と複雑な思いにかられる。

それに、アジアの辺境に身を置く立場としては、徹底抗戦して戦後を主導した英仏(そういう意味で米はちょっと違うか)に対し、徹底抗戦した結果として敵国の占領から戦後が始まった我が国、という対比は、どうしてもよぎる。

…とはいえ、当時を再現する美術や細やかな演出、陰影の深い映像、そしてなにより、主人公をはじめ役者陣の演技に見応えがある(中途、やや眠くなったりしたが)。
「なぜいまチャーチル?」とも感じるけど、いろんな意味合いで、これも今どきの映画なんだと思わされた。


[PR]
by t-mkM | 2018-04-19 01:12 | Trackback | Comments(0)

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』を観た

先の日曜日、都心に新しくオープンした商業施設、東京ミッドタウン日比谷に入っているTOHOシネマで観てきた。
以下は「Movie Walker」に載っているあらすじ。

1971年。ベトナム戦争が泥沼化、アメリカ国民の間には疑問や反戦の気運が高まっていた。そんななか、アメリカ国防総省がベトナム戦争に関する経過や分析を記録したトップシークレットである文書、通称“ペンタゴン・ペーパーズ”の存在をNYタイムズがスクープ。しかし、その後の記事は政府の圧力で差し止められてしまう。アメリカ初の女性新聞発行人として足固めをしようとしていたワシントン・ポストのキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)は、同紙の編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)らとともに、真実を明らかにすべく奔走。ライバル紙であるNYタイムズと時に争いながらも連携、団結していくが、政府からの圧力はますます強くなり……。
https://movie.walkerplus.com/mv64145/

ミッドタウン日比谷ではおそらく一番大きな劇場と思われるスクリーン1にて鑑賞。
このTOHOシネマ、"プレミアム何たら"というのをやたら連発して宣伝しているんだけど、階段状の劇場はかなり広く、天井も高く、画面もデカくて、ほぼ一番後方の席で観たものの、画面が小さいと感じることもなかった。今どき、新しくできる映画館ほど、居心地(観心地か)がいいなぁ。

スピルバーグ監督、主演がメリル・ストリープにトム・ハンクス、でもってテーマがベトナム戦争絡み、となるとアカデミー賞最有力かと思いきや、今回はいくつもの各賞でノミネートされたものの、受賞には至らなかったようである。

で、本作。
なんでも9ヶ月くらいで制作されたようだけど、これだけの陣容を揃え、エンタメとして見応えのある作品を突貫で作ってしまえる、ハリウッドの底力というのはスゴいの一言。
予告編を見ていると、そう面白そうには感じられなかったのだけど、そんなことはまったくの杞憂。
主演の二人の演技はもちろんのこと、導入部分のベトナムにおける戦闘シーンから70年代はじめの新聞社の(ネットも携帯電話もなく、紫煙がただよう)内部のリアルさ、ワシントン・ポストの編集部の一癖ある面々、最後に出てくる輪転機のこれでもか! というリアルな再現などなど、画面の隅々にまで計算が行き届き、ラストの盛り上がりには胸にせまるものがある。

編集主幹のベンが言う「報道を守るのは、報道だけだ(趣旨)」など、本作のあちこちで言われるセリフからも、スピルバーグのメッセージはストレートで明確だ。それほど明快な主張を、役者の演技と細部まで配慮された演出や画面構成、そして脚本によりエンタメとして見せるのには、ただただ感服。強烈に皮肉の効いたラストの場面ともあいまって、強く印象に残った。

アクションシーンこそないけれど、大画面の劇場に身を委ねて観るべき映画、だな。


[PR]
by t-mkM | 2018-04-12 01:05 | Trackback | Comments(0)

水族館劇場 新宿・花園神社公演『望郷オルフェ ー来るべき追憶の後にー』

すでに前半の公演は終わり、明日12日から後半で、連続7日間の公演。
前売りチケットは観劇前日まで販売、とのこと。
以下、とりあえず劇団サイトから貼っておく。

【公演情報】

望郷オルフェ ー来るべき追憶の後にー 


▼公演日時
4月5(木)6(金)7(土)8(日)9(月)
12(木)13(金)14(土)15(日)
16(月)17(火)18(水)

新宿 花園神社 境內特設野外儛臺 星の筏

全公演 夜7時 劇場外顔見卋(プロローグ)スタート  

全席自由期日指定 
上演時間 約130分

▼会場
新宿 花園神社 境內特設野外儛臺 星の筏

住所:〒160-0022 東京都新宿区新宿5丁目17−3


▼木戸銭
前売券  4500円  観覧日前日まで下記前売券販売所で購入できます。

電話予約 4800円  4/4まで受付。☎080-2339-5615

当日券  5000円  中高生割引券 3000円 観劇当日午後5時より劇場窓口で発売。

※公演はすべて期日指定の自由席です。当日券も若干ご用意しますが、入場制限する場合もございます。確実な前売券をお奨めいたします。

詳細は以下の劇団サイトを。
http://suizokukangekijou.com/information/2018_hanazono.html


[PR]
by t-mkM | 2018-04-11 01:10 | Trackback | Comments(0)

ブント・リーダーの新たなる評伝

よく行く図書館の新刊コーナーで、偶然、目に止まったので借り出して読んでみた。

『評伝 島成郎』佐藤幹夫(筑摩書房、2018)

以下はアマゾンの内容紹介から。

ブント書記長として六〇年安保で一敗地にまみれた島成郎が、次に向かったのは沖縄だった。一精神科医として政治を封印し、逆境の中で地域精神医療を一心に粘り強く担った島成郎。それはまさに“敵”の本丸に向かって攻め込む闘いの人生そのものだった。霧に閉ざされていた彼の後半生、もうひとつの闘いを、圧倒的な取材をもとに描く書下ろし評伝。

60年安保闘争を主導したブント(共産主義者同盟)のリーダーで、"アンポ"敗北後は大学に戻って精神科医となって沖縄へ行った…、という程度はなんとなく知ってはいた。そうは言っても、"すでに過去の人だろう"と思っていた「島成郎」だけど、彼の生涯をトータルにふり返るこの著作を読むと、著者の多大なる熱量もあってか、意外なほど「現在」にも通じる問題意識と射程の広さ、長さが印象に残る。かなり骨太の著作ではあるけど、読み応えがあった。

冒頭、共産党と決別してブントを立ち上げたにも関わらず、その共産党の幹部であった瀬長亀次郎との隠れた交流が、いくつかの傍証から推測されるのには驚かされた。また後半、若手の精神科医として沖縄に渡ってからの活躍が、島と交流のあったさまざまな立場の方の証言から再構成されていくのだが、生涯にわたり「人に出会い、集めて組織し、何ごとかをやり、後続に影響を与えていく」という感じ。ブント時代のオルグを思わせる。

新刊なので、まだ書評などがほとんど出ていないけど、ググってみると毎日新聞の記事が上がっていた。その記事の最後に、こんなことが書いてある。

 歴史的に見て、ブントを源流の一つとする新左翼の思想・運動は、ひとくくりにできない複雑な要素をもつ。一方の極には内ゲバやテロなどの凄惨(せいさん)な事件があり、暗部を消し去ることはできない。しかし別の面では、草の根から社会の矛盾を問う地道な活動の担い手も生み出してきた。本書が描く島の軌跡は、その前向きな面を示す象徴的な事例と感じられる。

毎日新聞 2018年3月12日 東京夕刊
https://mainichi.jp/articles/20180312/dde/014/040/005000c

「その前向きな面を示す象徴的な事例」とあるけど、島が精神科医として沖縄に渡り、その地域に根ざし、(大きく言えば)日本における精神科医療に対して戦いを挑んだ記録とも、本書は読めるだろうか。
島が亡くなってから18年近く。汲み取るべき「遺産」は意外にも深くて大きい、と感じた。


[PR]
by t-mkM | 2018-04-05 00:55 | Trackback | Comments(0)